噓から出たまことは強い
人間は嘘をつく生き物。いまだかつて一度も嘘をついたことがないという人がいたら、おそらくその人は最大級の嘘つきだろう。
ある嘘をついてそれを通そうとすれば、さらに嘘を重ねなくてはいけない。そうなるとやがてエンドレスになり、普通の人の手に負えなくなる。
ところが数え切れないほどの嘘を積み重ねているうちに、それが真実になってしまった人がいる。そんなことができるのだから、その人物は天才と言えるだろう。
『世界をだました男』フランク・アバネゲイル著という本を読んだ。『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』という映画を知っているだろうか。レオナルド・ディカプリオが主演した作品で、その映画の主人公がこのフランク・アバネゲイル。この本は映画ではなく、実際のフランクのことが書かれた彼の自伝。
もちろん映画とはちがう部分が多い。だけど圧倒的に事実のほうが面白い。1960年代というコンピュータが一般的でない時代だったからできたことだろうけれど、普通の人間には絶対無理。それもフランクが詐欺をやったのは10代だからね。天才としか言いようがない。
彼のことを知らない人のために、簡単に紹介しておこう。主な罪は小切手詐欺で、当時のレートで250万ドル以上の金額を手にしている。そのまま逃げていれば、余裕で一生遊んで暮らせる金額だろう。
その小切手詐欺を行うため、彼が選んだのはパイロットになること。本物の制服を手に入れて、パンナムの副機長というIDやパイロットの免許まで自分で作り、デットヘッドを250回以上も行なって26カ国も旅をしている。デットヘッドとは他の会社の航空機に便乗させてもらう制度。操縦席の予備の椅子にすわって、ときには操縦桿をにぎることもある。
それだけでなくフランクは医者として半年以上も病院で働いたし、大学講師までやっている。医者に関してはインターンをうまく使うことで、患者の診療を免れていた。大学の講義は大人気で、多くの学生が殺到したらしい。
そして彼の場合は嘘から出たまことがある。経歴を詐称してルイジアナ州の法務局で弁護士として働いていた。ハーヴァード大学の卒業証書を偽造することで、司法試験を受けた。3回チャンスがあるんだけれど、まじで勉強して3回目に見事合格している。やはり頭のいい人なんだね。
スウェーデンからアメリカ護送されたとき、ニューヨークに着陸したと同時に旅客機のトイレから脱走したり、アメリカの刑務所からも脱走している。この脱走方法はメチャメチャ笑えるので、知りたい人はこの本ぜひ読んで欲しい。
ボクがショックだったのは、フランスの刑務所のひどさ。初めて逮捕されたのがフランスで、半年間収容されている。その環境はここに書けないほど劣悪で、彼が発狂せずに解放されたのは奇跡でしかない。いくら60年代とはいえ、フランス人の人間性を疑ってしまうほど。
それに比べてスウェーデンの刑務所はホテルのように思える。罰を与えることに重点を置くフランスと、更生させることを目的にしているスウェーデンとのちがいに唖然としてしまった。もしスウェーデン判事の英断がなければ、フランクはヨーロッパ中の刑務所に収監された結果、心神喪失で亡くなっていただろうと思う。
これらのすべてのことを10代でやったなんて、何度も書くけれど天才でしかない。フランクがアメリカでの刑期を短縮されて、FBIのために働いたのはわかる。こんな天才を刑務所に置いておくより、犯罪捜査に活用するほうがいいものね。
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