子供を持つことのリスク
ボクには子供がいない。実を言うと、子供を欲しいと思ったことがない。そういう意味では、かなりの変わり者だということだろう。
その理由のひとつに、出産に対する潜在的な恐怖がある。男のくせに出産に恐怖を覚える意味がわからん、とほとんどの人は思うだろう。ボクが抱えている恐怖は出産によって妻が命を落とすこと。もしかしたらこのことに関して過去生的な問題があるのかもしれない。とにかく映画や小説で主人公の妻が出産で命を落とす場面があると、胸が苦しくなって卒倒しそうになる。
子供を持っていないもうひとつの理由が、自分が子供と暮らしているイメージをまったく持てないこと。未来を展望したとき、子育てをしているイメージがまったくやってこない。
猫と暮らすイメージは湧いてくるのにね。だからいまの人生では子育てをしないんだな、と自分勝手に納得している。だから子供を持つことの喜びや幸福感を、ボクはこの人生で体験することができない。もしかしたら人生を損しているかもしれないね。
でも同時に、子供を持つことのリスクからは解放されている。金銭的なことだけじゃなく、子供の病気で心身をすり減らしたり、学校のいじめで心を痛めることはない。そして一般的じゃないかもしれないけれど、自分の子供が犯罪者になるというリスクを思うことはない。
ほとんどの人が幸せに暮らし、それなりに生きていくと思う。だけど子供が犯罪者になったり、ひどい場合は親を殺すことがある。それは子供を持つ人にとって、誰にでも起こりうるリスクだと思う。
子供がいないボクでさえ、ある本を読んでそんな親の気持ちの一端を知ったような気がした。
『息子ジェフリー・ダーマーとの日々』ライオネル・ダーマー著という本。
ジェフリー・ダーマーという名前を知っているだろうか? 知らない人は検索すればすぐにわかる。
1960年生まれなので、ボクの世代に近い。ジェフリーは1990年代に全米を震撼させた事件を起こしている。なんとわかっているだけで17人の青少年を殺し、死体と淫行におよび、遺体を切り刻み、そして食べている。
有罪となって仮釈放のない終身刑となったが、1994年に刑務所で黒人の囚人に殺されている。34歳だった。ジェフリーが殺した被害者は黒人ばかりだったのがその理由かもしれない。とにかく過去に類を見ないほどの凶悪犯罪者だった。
そんなジェフリーの父親が残した手記。子供のころのジェフリーがどのような赤ちゃんで、どのように育ったのか書かれている。無邪気にほほえむ赤ちゃんのときの写真を見ると、それだけで涙が出てきた。この父の苦しさが痛いほど伝わってきた。
この本全体に盛り込まれているのは父親の罪悪感。もっとこうすれば、もっとああすれば、息子はこんな犯罪を犯さなかったのでは、という父親の心から吹き出た血の涙で文章がつづられている。だけど時間を戻せない以上、そこには後悔と罪悪感しかない。
ジェフリーがここまでの犯罪を犯したのは、様々な理由が憶測されている。ただ父親にとっては愛すべき息子であり、内気で積極性のない子供でしかなかった。それだけに本当に胸が痛くなる。子供を持つって、こんなことも起きるんだと考えさせられてしまった。
物理的な原因として考えられるのは、母親が妊娠中に精神的に病んでいたこと。お腹に子供がいるのに、大量の精神安定剤等を服用している。もしかしたらその影響が強いかもしれない。それ以外には、父親の幼いころにもジェフリーと同じような殺人衝動があった。だからこの父は自分の気質が遺伝したのではないかという不安も抱えている。
とにかくすさまじい内容だった。時系列で読み進めていくと、本当に何が起きたのかわからない父親の混乱と恐怖に同調してしまう。幸いにも再婚した妻が素晴らしい女性だったので、父親はこの苦悩をどうにか耐えることができたんだと思う。まだその苦悩は続いているんだろうけれどね。
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