アイデアや才能より必要なもの
緊急事態宣言が出たことで、飲食業界は大変なことになった。宣言解除を待てずに廃業したお店もあれば、デリバリーを併用して必死で現状を持ちこたえているお店もある。なんとか再開しても、感染防止対策に追われて余計な負担が増えているだろう。
そんななか、緊急事態宣言中に売上を伸ばしていた飲食店がある。それはマクドナルド。世界的にはどうなのかわからないけれど、日本のマクドナルドは利益を落としていない。たいしたもんだ。
そのマクドナルドの誕生を描いた映画を観た。
『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』(原題:The Founder)という2017年のアメリカ映画。マクドナルドを世界最大のファストフードチェーン店にしたレイ・クロックの伝記映画。主演はマイケル・キートン。
ボクはかなり前にレイ・クロックの自伝を読んでいる。だから1954年にスタートしたマクドナルドの偉業については知っている。この映画はその自伝を中心に脚本が書かれていて、ほぼ実話とのこと。内容を知っていたけれど、ラストまで興奮して観てしまうほど素晴らしい映画だった。
ファウンダーというのは創業者のこと。レイ・クロックはマクドナルドの創業者ではない。彼は何をやっても中途半端なビジネスマンだった。夢はあるけれど、いつもギリギリの生活。この当時はシェイク用のミキサーを売り歩いていた。
あるとき注文を受けたレストランに衝撃を受ける。それがディック、マックの兄弟が経営していたマクドナルドというハンバーガー店。いまと同じように、注文から30秒で商品を提供するシステムを構築していた。それはほぼ弟のディックのアイデア。
レイはこの店に自分の人生の光明を見いだす。二人の兄弟は支店を増やすことを嫌がった。品質の保証ができないから。だけどレイは必死で説得することで、ようやくフランチャイズの承認を兄弟から得る。そこからレイの躍進が続く。
もちろん簡単な道ではなかった。自宅を抵当に入れて、もう少しで失いそうにまで追い込まれたこともある。だけどその度に彼を助ける人物が現れる。そうして危機を乗り越えていくことで、やがてマクドナルドを全米を制覇する最大のレストランチェーンにしてしまう。このあたりの機微は、映画よりもレイの自伝のほうが面白いかもしれない。
ただ事業を広げていくにしたがって障害となったのはマクドナルド兄弟。レイが商売を始めるとき、やや不利な条件で契約してしまった。何度も契約のやり直しを申し入れたが、兄弟は拒否してしまう。そこでついにレイが牙をむく。
従来のフランチャイズは、加盟者が自分で土地を所有して建物を建てた。だけどレイは有用な土地を買い漁ることで、それを加盟者にリースする方向へと変えた。莫大な不動産を所持することで、金銭的に圧倒的な優位に立つ。そして『マクドナルド』の権利を買い取ってしまう。
このあたりは実にえげつない。マクドナルド兄弟が気の毒なほど。有能な弁護士やブレーンをつけて、レイは徹底的に兄弟を追い詰めた。そして最終的に大金を兄弟に支払うことで、彼らが二度と『マクドナルド』の名前を使えない契約に署名させる。
ラスト近くで弟のディックがレイに食ってかかる。「マクドナルドのシステムは俺が考えたものだ。お前はそれを盗んだんだ」と責める。
だけどレイは答える。「きみは俺以外にもそのシステムを他人に見せたはずだ。だけど誰も俺のように成功していない。その理由がわかるか?」と訊く。
ディックは首をふった。そのあとのレイのセリフがいい。
「アイデアや才能がどれだけあってもダメだ。必要なのは執念だよ」と言い捨ててその場を離れる。いやぁ、なんかカッコよかった。
良くも悪くも、この時代のアメリカのビシネスを象徴しているんだろうね。マイケル・キートンがはまり役すぎて、久しぶりに彼の演技を堪能した。強引でどこか嫌なやつなんだけれど、憎めないところがある。それがレイ・クロックだと思う。
あぁ、久しぶりにマクドナルとのハンバーガーが食べたくなったなぁwww
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