ホームレスの身代金どうする?
同じジャンルの小説を書かないと宣言しておられる百田尚樹さんが、ついに初めてのミステリ小説を出版した。もう1年近くなるので、ネタバレするつもりで読んだ。
だけどやめた。なぜならこれから読む人には何も知らずに読んで欲しいから。この作品は日本の現代社会で起きている様々な問題や課題が網羅されている。だからこそ事件の謎解きを楽しみつつ、一人でも大勢の人に読んで欲しいと思った。それゆえネタバレはやめておこう。
2021年 読書#110
『野良犬の値段』百田尚樹 著という小説。
物語のスタートはTwitterで始まる。ひとりの青年が不思議な投稿を見つける。その投稿先のサイトにはある人物を誘拐したと書かれていた。そしてその人物を使ってある『実験』をする、と。青年がそれをリツイートしたところ、そのサイトが一気に拡散される。
冗談かと誰もが思った。ところがそのサイトで6人の人物の写真がアップされた。最初は身元がわからないが、やがて誘拐されたのがホームレスだとわかる。警察は悪戯だと思って無視していた。
しかし誘拐犯はそのホームレスの身代金を要求してきた。その対象はマスコミ。小説で名前はうまく変更されているけれど、ハッキリ書けば毎日新聞、朝日新聞、NHK、日本テレビの4社。金額はちがうけれど、各社に数億円が要求されている。
ようやく警察も動く。主体となったのは警視庁の京橋署。それでもイタズラだという意見も多い。世論もそういう雰囲気だった。ところがトップバッターとして身代金を要求された毎日新聞が身代金の支払いを拒否した。
通常の誘拐事件というのは、どうしても助けたい身内を誘拐する。だけど見ず知らずのホームレスに億単位の身代金を払う必要はないと判断した。ところが期限が過ぎた直後、人質のひとりだった松下和夫の首が渋谷ハチ公前に置かれた。
これで一気に警察が動く。さらにNHKが要求を無視したところ、二人目のホームレスの首が新宿駅で見つかった。警視庁は京橋署のに捜査本部を置き、連続殺人事件として本格的な捜査を開始する。
困ったのは朝日新聞と日本テレビ。二人が殺されたことで世論が反転した。毎日新聞の購読者は一気に減り、NHKの受信料支払いを拒否する人が続出した。ホームレスとはいえ、大企業にすれば払えない金額を渋ったことに批判が集中した。
この部分が『野良犬の値段』というタイトルにつながる。
とこがこの物語の中盤になると、読者には犯人が明らかにされる。そして犯人の真の目的を突きつけられる。ここからが本当に面白い。おそらくこの小説を読んだほとんどの人が、犯人を応援したくなるはず。ボクもそうだった。
犯人は誰で、その目的とは? 朝日新聞と日本テレビは身代金は支払うのか? 警察は犯人を見つけることができるのか?
百田さんという作家は、小説にカタルシスを完璧に仕掛けてくる。つまり最後まで読めばモヤモヤが消えてスッキリする。ボクは読み終えた段階で、してやったりという気持ちになり、爽快な読後感を満喫した。犯人を応援している人は、必ずその気落ちになれるはず。
気になった人は是非ともその爽快感を味わってほしい。やっぱりネタバレしないでよかったなぁ。
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