幼い頃の先入観を吹き飛ばせ!
人間は中年以降になってくると、多くの固定観念でがんじがらめになっている。それまでの人生で様々な経験をして、悩み、苦しみ、ときには涙を流しながらどうにか切り抜けてきた。そしてそのたびに、個々の出来事について経験した主観を固定観念化している。
それは未来で同じことが起きたときに対処するためであり、人間としての防衛本能だろうと思う。ただ厄介なのは、その固定観念は強固な先入観を創り出してしまうということ。新しいチャンスや出会いが目の前にあるのに、その先入観によって機会喪失を引き寄せている可能性が高い。せっかくの新しい可能性を閉じてしまうことになる。
そもそもボクたちが初めて先入観を身につけたのはいつだろう? その芽はまだ言葉を話せない幼児にあったかもしれない。だけどもっとも大きな影響を及ぼすのは、本格的な社会生活を経験する小学校じゃないだろうか?
子供時代のことを思い返してみると、いまの人生に大きな影響を及ぼしている先入観があるはず。それがポジティブなものなら放置しておけばいい。だけどネガティブなもので、いまの自分にブレーキをかけているものなら削除したい。そんなきっかけになるかもしれない小説を紹介しょう。
2022年 読書#10
『逆ソクラテス』伊坂幸太郎 著という小説。久しぶりに読んだ伊坂さんの新作。ところがいつもと雰囲気がちがう。著者の作品でよく登場するのは、変なクセのあるギャングや殺し屋。普通に見える人でも、とんでもない出来事に巻き込まれたりする。
ところがこの小説の主人公は小学生たち。5つの短編が収録された作品で、子供たちの学校生活が中心に描かれている。それぞれの物語に関連はないけれど、登場人物が少し重なっていって、さすが伊坂さんと言いたくなる工夫が仕込まれている。
『逆ソクラテス』
『スロウではない』
『非オプティマス』
『アンスポーツマンライク』
『逆ワシントン』
という5つの物語がある。ソクラテスという哲人や、政治家のワシントン、映画の『トランスフォーマー』のオプティマスまでタイトルに使われている。だけど内容はそんな哲学的なものではなく、シンプルに心へ伝わってくる少年少女たちの物語だった。
基本的なテーマは人間の『先入観』について。大人は子供たちに観念を押し付けようとする。それに抗う少年少女たちの姿を読むことで、ボクたちの子供時代に心がタイムスリップしていく。同じことがなくても、思い当たることはいくつもあった。
もちろん観念を植え付けるのは学校の教師だけでなく、両親の影響も大きい。場合によっては兄や姉、あるいは同級生の場合もある。だけどそうした固定観念を、同じ立場の人が払拭させてくれる場合もあるだろう。
新しい小説なのでネタバレはしない。だけど子供時代の先入観との出会いを思い出したい人は、この小説を読むことで記憶が喚起されるだろうと思う。いじめ問題も出てくるし、後半には通り魔事件も起きてハラハラしたりする。そこは伊坂さん、穏やかな物語だけで終わらない。
ひとつだけ魔法の言葉を書いておこう。ある少年が同級生に教えたもの。誰かがきみのことを馬鹿にしても、この言葉を返せばいい、と言った。
「僕は、そうは、思わない」
観念なんて所詮は主観だということ。誰かがそれを植え付けようとしても、自分はそう思わないと拒否できる。この言葉が、この物語全体を貫いているテーマだと思う。伊坂さんの作品としては異質だけれど、これまでの作品に並ぶ傑作だと思った、
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