ディストピア世界の作り方
もう夏だと思うんだけれど、西日本は梅雨明け宣言が出ない。おそらく台風7号の影響で天気が崩れるからだろうね。
だけど肌感覚としては完全に真夏。今日も神戸は32 度くらいにはなりそうで、すでにこんな花が……。
なんとサルスベリの花が咲いていた。ボクの大好きな花で、夏の象徴と言っていい。やはり季節の進行がいつもより早いように思う。これで蝉の声がしぐれるようになったら、夏本番だよね。暑いのは辛いけれど、夏は夏で楽しい。
さて、とんでもなく面白く、そして恐ろしい小説を読んだ。ユートピアという理想郷に対する言葉として、ディストピアというものがある。現代のディストピア世界はこうして作られるんだよ、と言われているような物語だった。
『ザ・サークル』デイブ・エガーズ 著という小説。
タイトルの『ザ・サークル』は、小説に登場する多国籍企業の名前。イメージとしては、GoogleとFacebookを足したような企業だと思ってもらえばいい。それにAppleとTwitterとAmazonを加えてもいいかも、それだけでこの物語の企業が、化け物のような存在だとわかるはず。
主人公はメイという名の20代前半の女性。大学を卒業して、地元の公的機関で退屈な仕事をしていた。だけど大学時代のルームメイトのアニーが、サークルという有名企業の幹部になっていた。そこでアニーの紹介を受けて転職する。
物語のスタートは、この巨大企業の素晴らしい面が紹介される。すべてはデジタルで管理されていて、快適に仕事を行うことができる。一流のシェフを揃えた無料のカフェテリアもあり、清潔で最新設備を備えた宿泊施設もある。熱意ある世界中の頭脳がこの企業に集まり、新技術を次々に生み出していく。
メイは戸惑いながらも、やがてサークルでの生活に慣れてくる。そして友人のアニーに負けず劣らず、出世街道を邁進する。サークルが目指していたのは、透明化というもの。人間は秘密があるから罪を犯す。もし生活のすべてがカメラに撮影されてネットで公開されていれば、不正や犯罪をはたらく人間はいなくなる。
障害を持つ人たちも、健常者の経験を自分のこととして体験することで、世界と触れ合うことができる。メイも少しずつその思想に影響され、やがて洗脳されていく。そして自ら透明化することで、何百万人のフォロワーに自分の生活の全てを公開する。
そのことによってメイは会社の広告塔として世界中の人に認知される。サークルの経営者はメイを利用することで、政府そのものを乗っ取ろうと画策する。だが姿を隠していたサークルの創業者であるタイは、「このままでは世界は取り返しのつかないことになってしまう」とメイに警告する。そして広告塔になることをやめて、サークルを創業時の姿に戻して欲しいと懇願する。
さて、葛藤したメイの決断は?
結末は内緒にしておこう。できれば大勢の人にこの小説を読んで欲しいから。風刺小説であるとは思うけれど、とにかく身につまされる。ネット社会の便利な面だけでなく、その闇も同じだけの熱量で語られている。どう考えるかは、読む人次第だと思う。
ボクは最初メイの行動に共感していた。だけど後半になって言葉にできない恐怖を覚えてきた。でもどこにもあからさまな『悪』は存在しない。犯罪が行われるわけではなく、すべてが『善意』で進行していく。だけど……。
いや〜、このデイブ・エガーズという作家はまじでスゴイわ。小説だけでなく、ノンフィクションの分野でも活躍しているとのこと。今やアメリカの出版界を牽引している存在らしい。調べたら児童書まで書いていた。小説は少ないけれど、他の作品もさっそく読んでみようと思っている。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。