私刑の是非
今日は引きこもりの断食デーなので、仕事に割ける時間が普段より多い。その勢いでやりかけの仕事を終わらせ、明日からの段取りも完了。
そのついでに衣替えも済ませた。といっても、10分もあれば終わる。自称ミニマリストのボクにとって、冬から夏の衣替えなんて簡単。絶対的に衣装が少ないので、夏に着る物を手前の引き出しに入れ、冬に着る物を奥の引き出しに移動させるだけ。
クローゼットの中身をひっくり返して、部屋中に季節の服を広げる必要はない。断捨離を徹底して、ミニマリスト的な生活をするのは本当に楽しいよ。
あの世に持っていけない物を貯め込むことに時間を使うより、あの世に持っていけるかけがえのない感動を、ボクは少しでも多く経験したい。
さてそんな感動をもたらしてくれる読書も、1日1冊、最低でも2日に1冊のペースをキープしているので、ようやく積み上げられていた本が落ち着いてきた。昨日はこんな本を読了した。
『クロスファイア』宮部みゆき 著という本。
上下巻合わせて、文庫本でも900ページほどある長編。でも面白くて、あっという間に読んでしまった。
主人公は青木淳子という若い女性。読み始めていきなり驚かされた。淳子は超能力者で、パイロキネシスという火を発する能力を持っている。首をぐいっと動かして相手をにらみつけるだけで、鉄でさえ溶けるような高音で人間を焼き尽くしてしまう。
宮部さんはスティーブン・キングのファンで、この能力を使える主人公を書きたかったとインタビューで話されている。まさに彼の原作の映画である『キャリー』や『炎の少女チャーリー』を彷彿とさせる主人公だった。
淳子は、凶悪犯罪者なのに見合った罪を受けずにいる人間を許せない。平気で女性をレイプして、挙げ句の果てになぶり殺しをするような人間を探し、その能力を使って抹殺していた。つまり『私刑』を行なっている。
そしてもうひとりの主人公が、石津ちか子という中年の女性刑事。警視庁の放火担当の捜査官で、不審な焼死事件を追うことで淳子という存在を知る。超能力なんて信じられないちか子だけれど、牧原という若い所轄の刑事の影響で、少しずつその事実を受け入れていく。
さらにガーディアンという秘密結社がからんでくる。淳子と同じように、法で裁かれない、あるいは軽い量刑しか言い渡されない犯罪者を、超能力者を利用することで密かに殺している組織。
ガーディアンは戦後すぐにGHQ に対する組織として結成され、財界人や警察組織の幹部までもが在籍している。これまでに事故や自殺に見せかけて、多くの犯罪者を『私刑』処分にしてきた。
淳子と彼女を追うちか子。そこにガーディアンが加わることで、驚くべき結末を迎える。他にも他人の心を操作する超能力者や念力を使う人物が登場する。最後の最後まで興奮が続き、ページをめくる手を止めることができなかった。
今の法律では、被害者の家族が納得できない事例が出てくるケースはあとをたたない。犯罪者に対しては更生ということに主眼が置かれるため、死刑でなければ模範囚となって、再び何食わぬ顔で社会に復帰する。
だからそのことに憤りを覚えている警察幹部にも、ガーディアンに属している人間がいる。『私刑』を黙認し、場合によっては助けたり事件をもみ消したりする。
物語としては超能力者が出てくるアクション映画のようだけれど、そんな単純なものではない。そこはやはり宮部さん。現代社会において凶悪犯罪事件が抱える問題点を明確にしている。だから簡単に犯罪者を殺してしまう淳子を、どうしても否定できない自分がいる。
残忍な方法で家族を殺されたのに、証拠不十分で不起訴になったり、短い刑期で社会復帰していたら、やはり容認できないかもしれない。もしそんな能力を持っている人間がいたら、ボクだって加害者に対する復讐心を自制できないかもしれない。
この小説は2000年に映画化されている。ぜひ観たいと思ってメモしておいた。
淳子を矢田亜希子さん、ちか子を桃井かおりさん、そして牧原という男性刑事を原田龍二さんが演じている。さらに子役として映画デビューした長澤まさみさんも出演している。
さらにこの物語以前の淳子を描いた中編小説もあるとのこと。さっそくチェックして読んでみようと思う。特殊能力を持つことになった、彼女の生い立ちがわかるかもしれない。
あぁ、また観たい映画と読みたい本が増えてしまったよ〜〜!
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
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