ガストンとの対話 Vol.4
おはよう、ガス…。あれ?、ビアゴさん!
「ガストン様はお忙しいから、わしに代理で行ってくれとの仰せだ。きみに努力について話してやってほしいとな。そんなに怖がることはない!」
い、いえ、別に怖がっていませんが……。突然だったので驚いたのです。誰だかすぐにわかりませんでした。
「双子の弟のミアゴと間違われたのなら不愉快だが、そうでもなさそうだな。人族は見た目で他人を判断する悪い癖がある」
人族なんて言ったら、あなたたちの素性がバレますよ 髪は短くて髭もないですから、弟さんと見間違うことはありません。着ておられるローブの色も違いますからね。
「むだ話はここまでだ。まずはきみの努力についての見解を聞こう」
ふ〜、せっかちですね……。私は努力という言葉について違和感を持っています。自分が本当に好きで楽しいことをやっているのなら、他人から見て努力だと感じても、やっている本人は努力しているとは思わないはずです。努力という言葉には、嫌なことを我慢してやっているというイメージがあります。だから私は努力したいと思いません。人生でやるべきことに夢中になって、努力を努力と思わないような意識を持ちたいです。
「それでいい。その見解は的を得ている。やらなくてはいけないことはあるが、それを楽しんでやるか嫌々やるかは大きな違いがある。自分に嘘をついて努力することを美化していては、矛盾と葛藤を生むだけだ。よく理解しているな。だが、きみはそれで満足していないようだ」
はい。先日ガストンさんが言った「圧倒的な努力」が心にひっかかっています。そしてその必要性を最近感じているのです。努力という言葉に抵抗しながらも、何か大切なことがその言葉に隠されているような気がします。
「わかった。たとえ話で説明しよう。きみは中学生のときからギターを始めたな。ギターが弾けるようになるために努力したか?」
いえ、そんな気持ちをもったことはありません。ただ楽しくて、楽しくて。指から血が出ても弾き続けていました。学校から帰る時間が待ち遠しかったです。
「そうだな。だがなぜ今はギターを弾いていない。それだけ好きで続けることができたのなら、プロのミュージシャンになっていてもいいはずではないか?」
それは才能がないからでしょう。もっと上手い人はいっぱいいましたし、社会人になって収入を得なければいけませんから……。
「誰でも好きなことには熱中する。その熱中は努力を要しない。きみの言う通り、そこには努力という概念が存在しない。ここまではいいな?」
はい。
「ところがいつか壁にぶちあたる。ビジネスでも、音楽でも、物語を書くことでも、超えられそうにない障害がやってくる。そうすると熱中が冷めてくる。続けることが努力になってくるのだ。趣味で終わるものならそれでいいが、誰かに影響を与え、心を感動させるにはその壁を越える必要がある」
確かにそうですね。楽しく続けられることだけを選択していると、壁が見えてくる度に違うことをやってしまう。ある程度は上達しても、誰かを感動させるレベルには至らないですものね……。
「そうだ、熱中というのは壁の存在で吹き飛ばされてしまう。だが熱中を熱狂に変えることができた人間が、その壁を超えていくのだ。そうして人の心を揺さぶることができる。熱中を熱狂に変えるにはどうすればいい?」
あっ、そうか! それが「圧倒的な努力」なのですね!
「きみが以前に例えで書いていただろう。ロケットが大気圏を突破するのには、大きなエネルギーが必要だ。たいていの人間は、何かを始めてもその大気圏を突き抜けるパワーを持っていない。熱中はしていても、熱狂していないからだ。自分の人生の全てをかけても、そのことに邁進していく人間は少ない。その覚悟と決意を行動に移すことで、大気圏を突破できる。圧倒的な努力というのはその原動力だ」
ありがとうございます。好きで楽しむことは大切ですが、熱狂することの意義を知ることができました。私に足りなかったものが見えてきたように思います。
「何かを続けることはしんどいものだ。だが、その価値はある。人生を生きることに熱狂しなさい」
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