人間とアンドロイドのちがい
今年公開される予定で、もっとも気になっている映画が『ブレードランナー』の続編。
リドリー・スコット監督の作品としては、最高傑作だと評価されているSF映画。そして主人公のリック・デッカードを演じたハリソン・フォードにとっても、俳優としての評価を高めた作品だと思う。
映画は1982年の公開で、舞台は2019年の地球。続編は『ブレードランナー2049』というタイトルだそうで、30年後を描いた作品になるらしい。まだ詳細はわからないが、とにかく今から楽しみにしている。
『ブレードランナー』という映画は、当初はあまりヒットしなかった。たしか最初の公開は、早めに打ち切られたはず。ところが時間の経過にしたがって、その独特の世界が注目されるようになる。
ブレードランナーというのは、罪を犯して人間社会に紛れ込んだアンドロイドを見つけて殺すのが職務。ところがこの映画に関して論争が起きる。もしかして主人公のリック自身が、アンドロイドではないのか? という論争。
実はそれを言い出したのがリドリー・スコット監督で、それを示唆するシーンをわざと撮影している。ところがハリソン・フォードにも、映画会社にも反発されてカットされている。だから公開後にディレクターズカット版を出して、リックはアンドロイドかも、という問いを投げかけている。
この映画が面白いのは、そのような想像力が入り込む余地があるからだと思う。今ではハリソン・フォードもこの作品を認めているので、続編には当然ながら出演している。もしかしたら、この論争の答えがが明らかになるかもしれない。
ボクもこの映画は何度も観ているし、近いうちに再び観ようと思っている。続編を見る前にチェックしておきたいから。
ところが原作を読んだことがない。こうなればしっかりと原作を把握しておくべきだろうと思い、さっそく読んでみた。
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック著。
読み始めていきなり驚いた。デッカードに妻がいるやんか??? 独身だと思っていたのに。
そう、原作は映画と随分ちがう。アンドロイドを追うのは同じだが、ストーリー展開だけで言えば新作を読んでいる気分だった。こっちが原作だけれどねw
でも実に面白い。もしかしたら、物語としては原作のほうがいいかもしれない。デッカードがアンドロイドを見抜いていく過程がリアルで、心理学的にも興味深い。
人間とアンドロイドのちがいは?
著者のディックは、『共感』という言葉を使っている。機械は人間そっくりに演技をすることができる。特に映画でも登場する最新の『ネクサス6型』というアンドロイドは、異常なまでに頭がいい。
警察の裏をかいて、先手を打つことができる。あるいは巧妙に人間世界に紛れ込み、確固としたコミュニティを成立させている。だから束になってかかってくるので、かなり手強いアンドロイドなのだ。
ところが唯一欠けているのは、他者に対する『共感』。他人の気持ちになることができない。実はこの『共感』の欠如は、凶悪犯罪者になりうるサイコパスと同じ。そう考えると、1968年にこの作品を書いた著者の着想の素晴らしさに驚いてしまう。
SF作家なのでアンドロイドという設定にしているけれど、おそらく他人に共感できない人間が増えていることを、当時の作者は危惧していたのだと思う。アメリカはベトナム戦争の真っ最中でもあったしね。
他人に対して思いやりを持てない人間を、暗にアンドロイドとして表現しているのだと感じた。そして主人公のデッカードも、自分がアンドロイドに対してまで共感できるかどうか悩んだりしている。
人間とアンドロイドのちがいを考えるということは、人間とは何かをつきつめることだと思う。
映画もいいけれど、ボクはこの原作の世界観がとても好きになった。この物語のなかのリック・デッカードのファンになってしまった。顔を想像すると、どうしても若い日のハリソン・フォードになってしまう。でも映画とは別人になって、ボクの心のなかで新しいキャラとして生まれ変わったと思う。
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