『ちむどんどん』に欠けていたもの
週遅れながら、今月スタートしたNHKの『舞い上がれ!』は感動の涙を流しつつ楽しんでいる。ところがその前に放送されていた『ちむどんどん』は何の感動もないまま終わってしまった。
途中で離脱することも考えたけれど、とにかく最後まで観ようと頑張った。なのに最終回で高齢者となった主人公たちにガッカリ。あの作品は俳優イジメのような脚本で、必死で役をこなそうとしている俳優さんたちが気の毒に思えるドラマだった。
ちょうど『ちむどんどん』が最終回を迎えたころから、少しずつ早朝に読んでいた物語がある。同じく沖縄をテーマにした作品。その小説を読むことで、『ちむどんどん』に欠けていたものがわかった気がする。
2022年 読書#100
『太陽の子』灰谷健次郎 著という小説。児童文学として書かれたものだと思うけれど、大人が読んでも感動せずにはいられない素晴らしい物語だった。
主人公は小学校6年生のふうちゃん。本名の大峯芙由子は物語の途中で明かされるけれど、ふうちゃんという名前で物語が最後まで進行する。神戸の海岸近くに暮らしていて、両親は「てだのふあ・おきなわ亭」という沖縄料理店を営んでいる。
沖縄料理店というだけで『ちむどんどん』が浮かぶ。想像できるようにふうちゃんの両親は沖縄出身。神戸の新開地などが出てくるので、おそらく神戸市兵庫区の和田岬に近いところに住んでいるんだと想像している。
ふうちゃんは神戸生まれの神戸っ子。だから両親や店の常連の沖縄びいきに対抗するけれど、やがて彼らを通じて沖縄のことについて理解していく。ふうちゃんの父は心を病んでいる。戦争体験によるPTSDだと思われる。子供のころに沖縄で悲惨な体験をして、大人になっても心の傷に苦しんでいるらしい。
ふうちゃんは父を治したい。その一心で、必死になって沖縄のことを知ろうとする。店の常連たちも手伝ってくれるけれど、ふうちゃんに強い影響を与えたのはキヨシ少年という15〜6歳の人物。トラブルがあったあと、ふうちゃんの店で料理人として働くようになる。
キヨシ少年は事情があって母とは別居していて、姉は自殺している。背景にあるのは沖縄の戦争だったり、本土における沖縄差別が影響している。キヨシ少年の心の傷を癒しつつ、ふうちゃんは父の体験をやがて知っていく。戦争が沖縄の人たちに強い影響を残し、戦後になってもそれが終わっていない。
『ちむどんどん』でも沖縄の戦争について触れられていた。だけどこの小説に比べたら悲しいほど浅い。主人公たちの理不尽なドタバタばかりが目について、沖縄について語り切れていなかったように思う。この小説を読むことで、あのドラマに欠けていたものが見えてきた気がする。
小説のラストもどこか切ない。ようやく沖縄のことを少しは理解したふうちゃん。だから父の心の傷を癒すため、キヨシ少年も含めた沖縄旅行が決まった。なのにその直前になって父は自殺してしまう。はっきり書かれていたわけじゃないけれど、描写によって自殺だとわかる。
ふうちゃんの父にとって沖縄に戻ることは、戦争を追体験することだったのかもしれない。とても切ない終わり方だったけれど、いつも明るいふうちゃんのキャラに救われた。ふうちゃんとキヨシ少年は、いつか夫婦になるんだろという未来がチラッと見えて物語が終わる。
調べてみるとドラマや映画になっていた有名な小説だった。『ちむどんどん」ですっきりしなかった部分が、この小説を読むことで解消されたような気がした。
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