侵略される多民族国家の悲劇
インドネシアでG20サミットが開催されることで、昨日は米中の首脳会談が行われた。台湾の扱いに関して緊張が高まっているアメリカと中国。もし台湾有事が起きれば日本だって巻き込まれるのは必須。会談は米中の緊張を緩和していくという、予想できる範囲の結果で終わった。ただし台湾に関して双方の意見は衝突していたとのこと。
これまでの歴史を見ていると、戦争というのは他国に対する一方的な侵略行為によって始まることが多い。台湾有事も発生すればそうなるだろうし、実際にウクライナではロシアによる非道な侵略行為が起きている。
それでも一丸となって戦うウクライ国民を見ていると、団結する強さを教えてもらえる。もちろんどんな国でも意見が分かれる。だけど有事となれば、侵略者に対して団結するだろう。台湾だってもし中国に侵略されたなら、国民は一致団結して戦うはず。
ところが多民族国家は難しい。先日からある漫画を読んでいるけれど、多民族国家が侵略されたときの悲劇を痛感させられている。
2022年 読書#106
『石の花2』坂口尚 著という漫画。第1巻の感想については、『これが他国に侵略される実態』という記事に書いているので参照を。
第二次世界大戦において、ナチスドイツ軍に侵略されたユーゴスラビアの人たちを描いた物語。日本人には理解しにくいのが多民族国家。第二次世界大戦が始まるころは、ユーゴスラビア王国という名前だった。つまり国王がいた。
でも一枚岩という雰囲気ではなく、セルビア人、クロアチア人、そしてスロベニア人たちで構成されている。1990年代に起きたボスニア紛争でもわかるように、内戦が起きやすい環境にある。現在ではユーゴスラビアという名前が歴史から消え、各民族が独立国家を作っている。
さて漫画に戻ると、ドイツの侵攻によって各民族は分裂する。そのうえドイツになびく人たちは、ユダヤ人の排斥まで行った。この第2巻でもそのことが描かれていて、全体像を理解するのが大変なほど問題が複雑化している。
登場人物の動きを整理しておこう。主人公のクリロは兄に殺されたフリをしてどうにか逃亡。再びゲリラ組織に戻ってドイツと戦おうとする。だけど兄のイヴァンにドイツ人の血が流れていて、ドイツに貢献していることに苦しんでいた。さらに友人のフィーを助けることもできなかった。
そのフィーはクリロが死んだと思い、絶望して車に飛び込んでしまう。命は助かったものの、視力を失ってしまった。彼女を収容所から救い出したドイツのマイスナー大佐は、妹の面影を持つ彼女を助けたいと願っている。だけどフィーは大佐に心を開こうとしない。
一方クリロの兄のイヴァンは、どうやら二重スパイらしい様相が見えてきた。ドイツに近づくと見せかけて、イギリスの指令を受けているような気配がする。おそらく第3巻以降で明らかになってくるだろう。
とにかくユーゴスラビアは、イデオロギーにおいても分裂している。まずドイツに対抗するのはチェトニクという組織で、セルビア人によって組織されている。イギリスを含めた連合国はこのチェトニクを支援しようとしていた。
もう一つの勢力は共産主義を目指したパルチザン。ドイツに抵抗しつつ、ユーゴスラビアを社会主義国にすることを願っている。それゆえソ連とは緊密に連絡をとっている。クリロたちゲリラ兵は、とりあえずこのパルチザンと合流した。武器も金もないので戦えないから。
ところがドイツという同じ敵があるこの二つの組織が、どうやら争う気配になってきた。実際に読み掛けている第3巻では内戦が起きている。目の前にドイツという恐ろしい敵がいるのに、一丸となって戦えない。ここに多民族国家の悲劇がある。このドラマではどのような結末が待っているのだろう。気になるけれど、第5巻まで読み進むのが怖い気もするなぁ。だって悲劇しか想像できないから。
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