人を呪わば穴二つ
犬という生きものは、動く愛情センサーだと思う。
街を歩いていると、散歩する犬によく出会う。ボクは猫を飼っているけれど、犬派でも猫派でもない。強いて言えば『動物派』であって、哺乳類だけじゃなく鳥類も爬虫類も昆虫だって大好き。だからそんなオーラが出ているのか、動く愛情センサーである犬がいつも反応する。
赤信号で待っていると、道路を挟んだ向こう側の歩道に散歩中に犬が待っていることがある。その段階でボクと妻を見たその犬は、遊ぶ気満々でボクたちを見ている。言葉は通じないけれど、明らかにそうだとわかる。
信号が青になって双方が道路の中央に歩み寄ると、当然ながらすれちがいざまに犬がじゃれてくる。まるで旧友に再会したかのように。『あなたたちは犬が大好きなんですね。知ってますよ。わかりますよ」と犬が話している気がする。
こちらが『大好きオーラ』を放つから、犬のほうも『大好きオーラ』を返してくれるんだろう。つまり『発したものが返ってくる』というのが宇宙の法則だということ。そしてそれは愛情だけでなく、呪いでも同じ。
人を呪わば穴二つ、という言葉がある。他人を呪ったものは、自分も同じ目にあって命を落とすという意味。まさにその言葉がそのまま物語になった小説がある。
『この世の春』下巻 宮部みゆき 著という小説。上巻についての感想は『憑依現象?それとも多重人格?』という記事に書いているので参照を。
宮部みゆきさんの時代小説を読了した。いや〜、本当に素敵な物語だった。そしてハッピーエンドなので気持ちがいい。乱心したことで若隠居させられて座敷牢に幽閉された前藩主の重興と、霊能力者の家系をもつ世話係の多紀は、無事に結ばれて夫婦になる。どちらも再婚。
この場面だけでも泣けるけれど、この物語に登場する人物たちは素敵な連中ばかり。元家老、多紀の従兄弟、大火災で顔に火傷を負った少女、蘭学を学んだ若い藩医の息子、重興の母親と元正室等、数えあげたらキリがない。この人たち全員に泣かされてしまった。
さて重興が乱心した原因は、幽霊が取り憑いたものではなかった。幼いころから父に性的虐待を受けたことによる解離性障害だった。つまり多重人格。だけど先ほどの登場人物たちの尽力で、隠されていた真実が明らかになる。そのことによって重興は元の好青年に戻る。
すべての元凶は呪いだった。重興の父は名君だったが、邪悪な仕事をしていた忍びの一族を藩内から一掃しようとしたことで恨みを買ってしまった。その恨みを成就するために、ある父親と娘が名乗り出た。娘は重興の父をたぶらかし、娘の父親は闇でその動きをサポートする。
そのことによって大勢の少年がいけにえになって殺され、多紀の母親の里である霊能者一族も村ごと皆殺しにされている。めちゃ面白い小説なので、ネタバレはこれくらいでやめておこう。結果として『人を呪わば穴二つ』ということになる。そしてそれを見事にやりとげたのが、多重人格の重興だった。
この本の表紙はアニメっぽくなっているけれど、アニメや映画で見たくなる作品だった。キャラが見事に立っていて、動いている彼らに会いたくなる。映像化されないかなぁ。久しぶりに素敵な時代小説を堪能することができた。
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