京ことば講座
夕方になると雲が多めですが、おおむね晴天が続いています。普段の活動に春の大掃除が追加されていますから、なかなかハードな毎日です。それでも嫌にならずに楽しめる程度でやっていくのが大切ですね。
近所のメタセコイヤの木です。冬の間は葉が落ちて枝だけになっています。しかし若葉が色づいて、すっかり様変わりしました。生命の美しさと躍動を感じますね。
さて今年のホワイトデーに交通事故に遭って生死の境をさまよっていた甥っ子ですが、順調に回復しています。昨晩は妹がLINEで動画や写真を送ってくれまして、元気そうな姿を見てホッとしています。
自分の現状もすっかり認識したようで、喉を切開して言葉が話せなくても、LINEを通じて意思疎通をしているそうです。さすが現代っ子。筆談で会話するより便利で分かりやすいですね。
そして今日からはいよいよ話せるようになるそうです。言葉で意思表示ができれば、若いのでさらに回復が進むでしょう。いまはゼリー等は食べられるそうですが、固形物が口にできるようになれば一気にパワーを取り戻すような気がします。そうなれば麻痺が残る右半身のリハビリが本格化するのでしょう。
話せるということは有難いことです。人間にとって言葉は大切です。以前ブログで連載していた『古都の炎舞』をリノーベション中ですが、祇園が舞台ですので京ことばが頻繁に登場します。同じ関西弁でも大阪弁と京都弁は微妙に違います。ところが京都弁と京ことばも随分と違うのです。
京都弁は京都の一般の方が日常に使う言葉です。しかし京ことばというのは、祇園等の花街や古い旅館の女将さん等にしか残っていない言葉です。私が在職中の頃は、修学旅行生に祇園の説明をしていました。舞子さんの歴史等を話すついでに、京ことばについて話すと喜んでもらえたのを覚えています。
京ことばの特徴として丁寧さが指摘されることがあります。でも京ことばは丁寧ではありません。バカ丁寧なのです。これは京都弁にも共通しているかもしれません。
芋があったとします。丁寧に言えば「お芋」ですね。ところがバカ丁寧な京ことばでは「お芋さん」と、さらに「さん付け」になります。油揚げなどは「お揚げさん」です。
祇園町では先輩の芸舞妓は姐(ネエ)さんと呼びます。お笑いの芸人さんでも、女性の先輩芸人に姐さんをつけますね。たとえばハイヒールのモモコならば、後輩は「モモコ姐さん」と呼びます。では私の小説に登場した舞子の月葉に後輩が呼びかけたと想像してください。
「月葉姐さん」
これは祇園町では呼び捨てと同じです! 「月葉!」と呼んだのと同じことになるのです。正しい京ことばならば、「月葉さん姐さん」が正解です。姐さんと敬称で呼んでいるにも関わらず、芸名の下にさらに「さん付け」しなくてはいけません。
では質問です。舞子さんや芸妓さんを私服で食事に誘う時、まぁデートみたいなものですが、これを「ご飯食べ」と言います。このご飯食べに舞子さんを誘ったと想像してください。
「なぁ、月葉、今度ご飯食べ行かへんか?」
「へぇ、おおきに」
さてこの答えは、YesでしょうかNoでしょうか? あなたが月葉を誘ったとしたら、この答えをどのように受け取るでしょうか?
正解は「分からない」です。月葉はご飯食べに行きたくても、行きたくなくても、同じ返事をします。つまりこれが京ことばの最大の特徴です。
「曖昧」というのが京ことばの特質です。明確に意思表示をしないで、相手に想像させるのがポイントなのです。言葉で言い表せない「心」を汲み取って欲しいという言語体系をもっています。空気を読め、ということですね。ある意味テレパシーのようなものです。
だから「ほんなら、いつがいい? 何が食べたい?」などと月葉に訊くのは、無粋な客として見なされます。いわゆる、恥ずかしいお客さんですね。お茶屋の女将さんに月葉と「ご飯食べ」に行きたいと伝えておけば、Yesなら自分の都合の良い日を段取りしてもらえます。
京ことばについて語り始めたら、これまた1冊くらい本が書けそうです。祇園町でしか使われていない言葉もたくさんありますし、その言い回しによって複数の意味を持っている言葉もあります。京ことばは奥が深いですよ。
ちなみに舞子さんや芸妓さんは、独自の手話を使っています。口に出せない内緒話をお座敷でするためです。
「眠たいなぁ」
「このお客さん、うざいなぁ」
というような会話を手話でするそうです。といっても少し昔の芸舞妓さんの話ですから、現在はどうなのか知りませんけれどね。甥っ子のLINEでの会話のように、新しい方法が開発されているかもしれませんね〜!
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