街の住人全てが共犯者の殺人
ボクはある意味運命論者なので、起きるべきことは起きると信じている。だからどれだけ避けようと思っても、決まっているイベントは必ず起きる。
それは素敵な出会いであったり、事故であったり、幸運な出来事であったり、病気であったりする。そして『死』も……。
そんなボクの想いがそのまま物語になった小説を読んだ。
『予告された殺人の記録・十二の遍歴の物語』ガブリエル・ガルシア=マルケス著という小説。
マルケスはコロンビアの作家で、1982年にノーベル文学賞を受賞している。残念ながら5年前に86歳で亡くなった。ある人のSNSでこの本を知り、なんとなく直感が働いたので読んでみた。そしてその世界にどっぷりとはまり込んでしまった。
この本はひとつの小説ではなく、『予告された殺人の記録』という中編小説と、12話の短編小説からなっている。後半の短編も実に面白く、どこどなく不思議な世界観に満ちていた。コロンビアの作家なので、スペイン語名前の登場人物の名前が覚えにくい。難点はそれくらい。
強く印象に残っているのはタイトルにもなっている『予告された殺人の記録』という小説。これはマジですごい。
解説を読むと、これは1950年代に起きた実話らしい。マルケスはノンフィクションとして書きたかったけれど、この当時のコロンビアではそういうジャンルが認められていなかった。それでフィクションとして書いている。著者本人が経験していることなので実に生々しい。
ある街で金持ちの若い男が殺された。犯人は双子の男兄弟。家畜を解体する刃物を使って惨殺した。
双子の妹は犯行前日に結婚式を挙げた。相手は著名で裕福な富豪。だけど結婚初夜の日に、花嫁は実家に送り返されている。なぜならヴァージンではなかったから。現代人には納得いかないけれど、これはこの町の富豪にとっては大切なこと。
そこで双子の兄弟は妹を問い詰めた。お雨の純潔を奪ったのは誰だ? 妹はその名前を口にした。そして翌日になってその男性が殺されたという顛末。これは『家』の名誉を守るための犯行なので、街の住民たちは殺人を止めようとしない。このことは理解しにくいけれど、国の風習とはそういうものだろう。
わかりやすく言えば、江戸時代の『仇討ち』に近い感覚だと思う。そう考えると、なんとなく理解できる。
ここからが面白い。双子は男を殺すと言い回っているから、住民の多くが知っている。だけど止めない。それは『家』の名誉を守るためだとわかっているから。だけど命を狙われている男には友人もいれば、家族もいる。だからそのことを伝えようとする。
ところがここから『運命』が動き出す。その日は朝から司教が船でやって来ることになっていた。街はその歓迎で誰もが忙しい。殺された男も正装して、司教を迎えるつもりで早朝に家を出る。そんなこんなで、彼は自分の危険を知ることがなかった。
これはもう『運命』だとしか思えない。最後に自宅へ逃げ込もうとしたのに、息子が家にいると勘違いした母親が大声におびえてドアに鍵をかけてしまう。そのドアの前で男は殺されてしまう。
双子の兄弟も殺人をしたくなかった。公言したのは誰かが男に伝えてくれることを期待したから。なのにどう転んでもその男が死ぬように『運命』は動く。このあたりの描写に、言葉にできない恐ろしさを感じた。
そしてもっと怖いのは新郎に追い出された新婦。どうやら自分が純潔を捧げた男を守るため、まったく別人の名前を口にしたらしい。なぜなら双子の兄弟と親友なので、その男ならまさか殺すことはないだろうと思ったから。これはキツいよなぁ。
『運命』とはこうして働くんだろうな。ボクがこの作家の小説を読んだのも、きっと『運命』が働いたんだと思う。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
『第1回令和小説大賞』にエントリーした小説を無料で読んでいただくことができます。くわしくはこちらからどうぞ。
コメント (0件)
現在、この記事へのトラックバックは受け付けていません。
コメントする