国家権力に正義を求める勇気
香港が緊急事事態に直面している。新型コロナウイルスではなく、もっとやっかいなもの。それは中国共産党という国家権力。
香港国家安全維持法が猛威をふるい、ここ数日で多くの人が逮捕されている。香港の新聞「リンゴ日報」の創業者である黎智英さんの逮捕は、CNNやBBCのネットニュースでも詳しく取り上げられていた。
それを受けてアメリカのポンペイオ国務長官はみずからのツイッターに、「深く憂慮している」と投稿している。EUの報道官は10日声明を出し、「外国の勢力と結託したとして逮捕されたことは、香港国家安全維持法が表現と報道の自由を抑えつけるために用いられているとの懸念をいっそう強く抱かせるものだ」と非難している。
そして今日になって衝撃的なニュースが駆け抜けた。日本の文化を愛してやまない民主活動家の周庭さんが逮捕された。予想されていたとはいえ、彼女が連行される映像を見ただけで恐怖を覚えた。民主化を唱えるだけで逮捕されてしまうなんて。最悪の場合、無期懲役という量刑が課せられるかもしれない。
国際社会が反発することをわかっていて、中国政府はこのような逮捕をくり返している。そして非難することはできても、内政干渉という切り札を持つ中国政府に対して諸外国は傍観するしかない。この香港の様子は未来の台湾かもしれない。
こうなることがわかっていたのに国外逃亡をしなかった周庭さんの勇気は、ボクたちのような凡人には持ち得ないものだと思う。もし日本が香港のような状態になったとき、ボクにそこまでの勇気があるだろうか?
今日たまたま、同じテーマを扱った映画を観た。国家権力に対して、正義を求めるために勇気を奮いおこした女性の物語だった。
『未来を花束にして』(原題:Suffragette)という2015年のイギリス映画。日本公開は2017年とのこと。原題のサフラジェットとは、20世紀初頭のイギリスの参政権拡張論者、特に婦人参政権論者を指す言葉。舞台は1912年のロンドンで、婦人参政権を求めた女性たちの苦悩と勇気を描いた作品。
基本的にフィクションだと思うけれど、クライマックスのシーンは実際に起きたことを使っている。それゆえ、ある意味真実を追求した物語なんだろう。主人公のモードは、劣悪な環境で、かつ低賃金の洗濯工場で働いていた。夫のサニーも同じ職場で働いていて、ひとり息子のジョージとの3人暮らし。
モードはたまたまサフラジェットとの女性たちと知り合い、その活動に関心を持つ。そして婦人参政権を議論する公聴会で代理発言したことで、彼女の証言が国会に提出されることになった。だけど無残にも否決。そのことがきっかけで、モードはサフラジェットとして活動を始める。
だけど女性の権利を認めない男性たちの抵抗は凄まじい。警察権力を使うことで、次々と女性たちを刑務所に送り込む。モードも集会会場にいただけで投獄され、やがて職場も追われる。そのうえ夫は一人息子を勝手に養子に出してしまう。なぜなら当時の法律では、母親に子供の親権が認められていなかったから。
仕事も息子も奪われたモードは、本気になって国家権力と戦うことを決意する、実はサフラジェットはかなり過激な組織で、テロまがいのことをして抗議活動を続けてきた。人命を奪うことはないけれど、投石や郵便ポストを爆破するようなことをしている。それは女性の権利に対して、大衆に目を向けてもらため。
そして史実であるクライマックスのエピソードに、モードが関わる。仲間のエミリーと一緒に、モードはダービー会場に潜り込む。国王の馬が出走するので、国王が競馬場にやってくるから。つまり女性の権利を直訴しようとした。だけどガードが固くてどうしよもない。
そこで一緒にいたエミリーは、走っている国王の馬に柵を超えて飛び込む。そうすればマスコミや大衆が注目してくれるから。そしてエミリーは命を落とした。だけどその葬儀には大勢の人が参列することになり、それをきっかけとして女性参政権が認められることになる。
かなりショッキングなラストだけれど、国家権力と戦う女性たちの勇気に感動した。とても素晴らしい作品だと思う。モードを演じたキャリー・マリガンは、普通の女性から活動家へと変貌していく女性を完璧に演じていた。
ただ映画を観ながら思った。香港で逮捕された周庭さんが、映画のエミリーのようなことにならないことを願わずにはいられない。
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