老夫婦の喧嘩は犬も喰わない
『夫婦喧嘩は犬も喰わない』と言われる。喧嘩している当人たちには重大に思えることでも、他人から見ればささいなことでもめているようにしか見えないといいうことだろう。
ただ若い夫婦とちがって、年齢を重ねた夫婦はその喧嘩にも年季が入っている。様々な難関を乗り越えた末の二人だから、本人たちにしかわからない世界なんだと思う。それだけに老夫婦の喧嘩は、マジで犬も喰わないものかもしれないwww
そんな年老いた夫婦の喧嘩をテーマにした映画を観た。
『ウイークエンドはパリで』(原題:Le Week-End)という2014年のイギリス映画。
ニックとメグのハロウズ夫婦は、結婚30年を記念してイギリスからパリへと向かう。一人息子は独立して家庭を持ったし、二人きりの生活が続いている。ここのところうまくいっていない二人は、この旅行をきっかけにしてかつての愛を取り戻そうとしていた。
ところが思い出のホテルが改装されていて、ひどいことになっていた。それでブチ切れた妻のメグの暴走によって、二人にいさかいが始まる。そして妻が見つけたパリの高級ホテルのスイートルームに宿泊することになる。
それで楽しいパリ旅行がリスタートする予定だったけれど、ニックの告白によってぶち壊しになってしまう。大学教授のニックは、黒人女性学生への不適切発言がきっかけで早期退職を勧告された。つまりクビになり収入が途絶えるということ。そこからまた二人の喧嘩が始まる。
それでもそこは30年の夫婦。ようやく仲直りしたとき、偶然にもニックの学生時代の親友と出会う。そしてパーティーに誘われた。その友人は作家として成功していて、パーティーの招待者も著名人ばかり。
ただでさえ無職になったニックは肩身が狭い。そのうえパーティーの前に妻と大喧嘩をして、妻はパーティーに出席していた他の男性の誘いに応じると宣言する。そのパーティーの席で、ニックの大演説が始まる。親友には尊敬する先輩だと紹介された。だけどいまの自分は職を失い、一文無しで、そのうえ妻は他の男とこれから外出する。「もう疲れ切った」という言葉を発して演説を終える。なかなか見ごえたのあるシーンだった。
結果として夫の演説によって、二人は一緒にホテルへ戻る。夫婦喧嘩は犬も喰わない、というそのまま。ただここから面白い。なぜなら分不相応な高級ホテルに宿泊して贅沢の限りを尽くした。カードの限度額を超えて完全に一文無し。ホテル代も払えない。
ラストシーンは、ニックが作家の親友に泣きついて助けてくれと電話する。そしてやってきた親友と3人で、ある映画の曲のダンスを踊るシーンで終わる。なんとも不思議な映画で、好き嫌いが相当分かれる作品だと思う。
ボクはこの映画が気に入った。自分の人生の終わりが見えて、ニックが未来への不安と絶望で苦しむ姿に共感したから。映画のラストでも、夫婦の経済問題は解決しないまま。それでも人生は続く、という終わり方がとても良かった。
ニックを演じたジム・ブロードベンドはイギリスの名優で、『ハリーポッター』シリーズにも出演している。妻のメグを演じたリンジー・ダンカンも同じくイギリスの俳優さん。ボクの知っている作品では『アバウト・タイム』という映画で、主人公のティムの母親役を演じていた。
わがままばかり言う妻のメグに対して、夫のニックは必死で妻への一途な愛を伝える。自分にはそれしかないという想いを込めて。そのギャップが生み出すアンパランスがとても面白い作品だった。
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