最初から最後まで昭和の匂い
作品名を知っていて、かつ映画化されたのも承知していた。だけどなんとなく手が出なかった小説を、たまたま電子書籍で見かけたので読んでみた。これが想像していたより面白く、昭和の匂いを思い切り満喫させてもらえる作品だった。
2021年 読書#73
『白昼の死角』高木彬光 著という小説。犯罪史に残るかのような大規模な詐欺事件の内幕を描いた小説。タイトルにあるように、白昼堂々と犯罪が行われている。それも法律の死角をついたもので、警察も検察も黒幕がわかっていながら手を出せない。クライム小説として、犯罪者を応援したくなるような構成となっている。
最初の設定がユニークだった。箱根に行った高木彬光さんが、旅館で出会った男から告白されるシーンで始まる。その男が黒幕の鶴岡七郎という天才詐欺師で、時がくれば彼の犯罪の全貌を小説にして世に出してほしいと依頼する。そしてこの物語が始まる。
最初は学生の犯罪だった。東大生である隅田光一という天才が、こうすれば儲かるというアイデアを親しい友人に語った。それで結成されたのが『太陽クラブ』という組織で、鶴岡七郎、九鬼善司、木島良介という4人のメンバー。
彼らが計画したのは金融詐欺。そして最終的に到達したのは手形詐欺だった。だがリーダーの隅田は多額の金を得たことで脇が甘くなり、やがて警察に目をつけられてしまう。その結果、隅田は自殺してしまう。
そのあとを引き継いだのが、隅田よりもさらに天才の鶴岡だった。彼の手口は『善意の第三者』を使うもので、自分たちに警察の疑いがかからないよう完璧な計画を作り上げていた。その手口は戦後の昭和20年代の後半だからできたこと。いまなら難しいだろう。
ただ他人を騙すということに関して、それは現代でも通用する要素が多々ある。だから昭和の匂いをプンプンと感じながらも、現代に置き換えて物語を楽しむことができた。ラストが陰鬱な感じで終わるのも、どこか昭和臭がするような気がしたなぁ。
それまで完全犯罪を行なってきた鶴岡だけれど、九鬼のミスで窮地に陥る。警察に逮捕されて尋問を受けているとき、鶴岡有罪の鍵を握る九鬼の死が告げられる。なんと鶴岡の愛人である綾香が九鬼と無理心中した。
愛する鶴岡を助けるため、綾香は九鬼に接触して彼を殺し、そのうえで自殺した。綾香は結核を患っていたとはいえ、鶴岡の有罪を確定する男を殺してしまう彼女の想いに背筋が寒くなるのを感じた。この結核という病気も、まさに昭和を象徴しているよね。
そんな鶴岡は絶体絶命になりつつも、小説を依頼した著者に手紙を送ってきた。なんと警察の手を逃れてアメリカで暮らすとのこと。彼も結核を患っていたはずなのに世に出たばかりのペニシリンが効いたのだろう。結局や最後まで警察に捕まらない男だったwww
この作品の映画が気になってきた。少し古いけれど1979年に映画化されている。機会があれば鑑賞してみようかな。
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