実話ほど恐ろしいものはない
小説を書いたり読んだり、そして映画を観ていると、人間はよくこんな恐ろしいことを想像できるなと思ってしまう。推理小説の作家は、想像の世界だけで大勢の人を殺している。だけどそれらは所詮フィクション。そう思って鑑賞しているから、鳥肌を立てながらもどこかで楽しんでいる。
ところが実話の映画化はそうもいかない。映像は作られたものだとしても、同じことが実際に起きたと思うと心底から恐怖を覚える。これは戦争の映画でも、そして殺人事件を映画化したものでも同じ。ある映画を観て、これが本当に起きたことにびっくり。人間の心の闇の深さを突きつけられた気がする。
2023年 映画#6
『フローズン・グラウンド』(原題:The Frozen Ground)という2013年のアメリカ映画。ロバート・ハンセンというシリアルキラーが、1980年代にアラスカで起こした連続殺人事件を映画化したもの。その方法が完全に常軌を逸している。
ハンセンは言葉巧みに若い女性を自宅に誘う。大抵は娼婦が多い。そして自宅の地下に1週間ほど監禁して、レイプをくり返す。その後ハンセンは、女性を自家用飛行機に乗せる。行き先はアラスカ山中の狩猟場。ハンセンの趣味は猟だから。
もちろん周囲に人はいない。そこでハンセンは女性を自由にする。そして逃げる女性を、自分の猟銃で撃ち殺す。つまり人間を狩の対象にして楽しんでいた。まさに悪魔のような人間で、これが実話だと思うと本当に恐ろしい。少なくとも17人の女性を殺害して、懲役461年の終身刑を受けている。
映画はハンセンが逮捕されるまでの顛末が描かれている。キーとなるのは唯一彼の元から逃げたシンディという娼婦。このシンディをヴァネッサ・ハジェンズが演じている。『ハイスクール・ミュージカル』でヒロインを演じた彼女のイメージが残っているので、この体当たりの役に驚いた。
ハンセンを追う州警察刑事のジャックを演じるのは写真のニコラス・ケイジ。ハンセンは街で名士とされていて、アラスカ市警はシンディの訴えを無視した。娼婦の言うことなど信用しない。そんな市警察幹部の対応に納得しない警察官が、州警察に捜査をするよう訴えた。そこでジャックが動くことになる。
殺人鬼のハンセンを演じたのが、なんとジョン・キューザック。このキャストはすごいと思う。どうみても彼は善人に見えるから。それだけに怖い。まさに鬼気迫る演技で、シリアルキラーを完璧に演じていたと思う。この3人の演技が本当に見応えがあって、映画ファンとしては素晴らしい作品だったと思う。
推理小説とちがって、映画の冒頭で犯人はわかっている。映画のメインは、ジャックがどこまで犯人を追い詰めることができるかというもの。そういう意味では実話を元にしているので、派手な展開はない。アクションスリラーを期待している人には、ちょっと物足りないかも。
でもこれが現実の怖さ。ハンセンを追い詰めていく過程に、ボクは州警察の執念を感じた。それでも状況証拠しかない状態で、州警察は窮地に陥る。それを救ったのが娼婦のシンディだった。彼女の勇気が、最終的にハンセンを追い詰めることになったという結末。それにしても酷い事件だよなぁ。
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