SOLA TODAY Vol.332
ボクは30歳になる直前、税理事務所を辞めて1年半ほどプータロー生活をしていたことがある。そのときに奈良の天河神社によく通い、その縁で知り合った男性がいる。知識は豊富で、精神世界に関して独自の見識を持っている人だった。だから尊敬していた。
その人がある日、仕事をしていないのだったら、いいセミナーがあると教えてくれた。そしてそのノウハウを使って、お金も稼ぐことができる。興味を持って参加したけれど、セミナーの主催者の説明を聞いて唖然としてしまった。
それは明らかなマルチ商法だった。
ボクは税理士の勉強をしていたから、お金に関してはシビア。マルチ商法に翻弄されることはない。その仕組みが一部の人にだけ収益をもたらし、大勢の人を不幸にすることも知っている。
紹介してくれた男性にそのことを指摘したら、しばらく理解できずにポカンとしていた。マルチ商法の『マ』の字でさえ頭になかったらしい。この当時、スピリチュアルな世界に関心を持つ人が、こうしたマルチ商法の被害者となり、そのまま自分が加害者になっている。
マルチ商法にとりつかれるのは、一般の人が知らない秘密を知っているという優越感にある。その優越感を刺激されることによって仲間意識を持ち、その世界にどっぷりと浸かってしまう。
現代においても、同じような傾向が残っている。スピリチュアル的なことに関わる人が、ネットを通じて情報商材を売りまくっていることがある。いつの時代も同じことが繰り返されているようだ。そして、近年になって別のことに関心を持つ人たちを、マルチ商法的な組織がリクルートしている。
そのターゲットになっているのは、『健康オタク』の人たち。いわゆる「トンデモ」健康情報を盲信する人たちは、同じ罠にかかりやすい。こんな記事を読んだ。
「トンデモ」健康情報で家庭が崩壊した男性が語る、元妻の「変化」
なかなか興味深い記事なので、時間のある方は読んでほしい。ある男性の体験談。
結婚前から妻は、特殊な健康法に凝っていた。最初は「コーヒー浣腸」だったらしい。この男性が断ると、それ以上は勧めてこなかった。だけど結婚すると、妻の「トンデモ」度はエスカレートしていく。
とにかくネット情報に敏感。水中出産を言い出したり、ケーキを食べるとお乳の出が悪くなるということで、砂糖や牛乳を取らなくなった。さらに『薬は毒』という言葉を鵜呑みにして、家庭での服薬を禁止するようになる。さらに出産したら自分の胎盤を食べたい、と言い出したらしい。それもネットの情報。
健康に関して意識が高いのは、決して悪いことじゃない。その男性はそう考えて、なんとか無難に結婚生活を送ってきた。ところが次に妻がハマったのが、マルチ商法。「トンデモ」健康法が縁で、ある人物と知り合い、その世界に取り込まれてしまった。
その人物から影響を受け、紙おむつは経皮毒になると布オムツを使用。それはいいとしても、子供の肌がかぶれても、医者の処方薬を絶対に使わない。子供の運動会で「牛乳は牛が飲むもので、人間が飲んではいけない」と大勢の人に言って回ったりする。さすがにその男性もヤバいと思い始めた。
マルチ商法にハマることで、2年くらいのあいだに200万くらいのお金を妻は使っている。耐えきれなくなった男性が離婚を切り出すと、妻は娘を連れて家を出た。結果的に家族は崩壊してしまう。
もちろんこれは男性の一方的な意見だから、すべてが真実かどうかはわからない。だけど同じような事例があるのはたしか。今や宗教よりも、「トンデモ」健康法にハマる人たちのほうが、マルチ商法等のヤバい世界に引き込まれやすいように思う。
現代人にとって健康法は、宗教と同じようなものかもしれない。
TwitterやFacebookを見ていると、これやヤバいなぁと感じる人を大勢見かける。自分の信じることが絶対的であることを拡散しまくっている。特にスピリチュアルな世界に関心が高い人の食べ物や医療関係の記事は、善意の恐怖で他人をコントロールしようとしているのを感じることが多い。
自分が盲信するのは勝手だけれど、他人を巻き込まないでほしいよね。だけどマルチ商法は、他人を巻き込まないと儲からないシステムだものなぁ〜w 困ったものだ。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。