失ってからでは遅すぎる
自己主張することなく当たり前に存在するものほど、失ったときにあわてふためくことになる。
もっともわかりやすいのが空気。普段は空気に感謝する人はいない。窒息しそうな経験をして、ようやく空気の有り難さがわかる。
これは人間関係でも同じ。本当に必要で大切な人ほど、いい意味で空気のような存在になっている。だからつい感謝の想いを忘れてしまう。そして何ものにも代えがたい存在を失くしたことに気づいたとき、息絶え絶えになって大切にしなかったことを後悔する。
今日観た映画は、そんな人間のバタバタが見事に描かれていた。
『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』という2018年の日本映画。
ボクの大好きな『家族はつらいよ』シリーズの3作目。家族を描かせたら右に出るものがいない山田洋次監督の作品。相変わらず思い切り笑い、同時にホロリとさせられた。笑いのツボも『男はつらいよ』を彷彿とさせられて、さすがだなぁとうなずいてばかりだった。
それにしてもこの映画のレギュラー陣の俳優さんたちは本当にうまいよね。おそらく山田監督も安心して演技を見ていられるんじゃないだろうか。回を重ねるごとにヴァージョンアップしているように感じた。
今回の主役は平田家の長男の嫁である史枝。夏川結衣さんが演じる史枝は、夫の両親と二人の息子と同居している。過去2回の作品を観ても、よくこれだけ騒がしい家族で文句も言わずに主婦をしていると感心するばかり。その史枝がこの映画でついにキレる。
空き巣に入られたことがきっかけで、夫の横暴さに耐えられなくなる。それで家出をしてしまう。
すべてを史枝に任せていた平田家は大騒ぎ。あわてて家事を請け負った吉行和子さん演じる姑の冨子がギックリ腰で動けない。ここからいつものドタバタになって、大笑いすることになる。
結果としてうまく収まるんだけれど、現代社会の家族が抱えている問題がさりげなく提起されている。家族の役割分担や、高齢者問題、さらにお墓のことについてまで語られている。おそらく自分の生活と重ね合わせて観ている人が多いと思う。
ラストシーンで次男の妻である憲子が妊娠を表明する場面があるので、第4作目もありそうだね。それにしてもこの次男を演じた妻夫木聡さんと蒼井優さんの夫婦はいいよなぁ。この家族なかで懸命に『良心』の役割を果たしている。
こうなると山田洋次監督の最新作である『男はつらいよ』が気になってきた。寅さんはいないけれど、きっと素敵な物語に仕上がっているんだろうなぁ。
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