あなたの物語が、世界を変える
いまの時代、芸能記者というのは後追いしかできなくなってきた。なぜなら著名人が、自らのプライベートをブログ等で公表するから。
歌手のケイティ・ペリーがオーランド・ブルームとの子供を妊娠した、というニュースが流れた。そのソースはなんと、彼女の新曲のミュージック・ビデオだった。『Never Worn White』というタイトルで、昨日の夜にさっそく見た。
どんなふうに妊娠を公表するだろうと思っていたら、ビデオのラストにケイティが横向きに立つシーンがある。明らかにお腹がせり出していて、妊娠中なのがわかる。気になる人のためにリンクしておこう。
いやいや、本当に面白い時代だよね。情報発信の方法としても、そして新曲のプロモートとしてもこれ以上効果的なものはない。普段彼女の曲を聞かない人でも、ついビデオを見てしまうだろう。
現代は誰もがミュージシャンであり、コメディアンであり、俳優であり、漫画家であり、作家である時代。その気になれば、ネットを通じて自分を表現することができる。そしてどんな人にも、誰かに語りうる物語を持っていると思う。
自分が暮らす世界を変えていくためには、それぞれの人が生きる、そして創造する物語を生き抜いていくしかない。ボクはそう思う。
そんな世界観を小説にした作品がある。こんな不思議な物語を読んだのは初めてだった。
『熱帯』森見登美彦 著という小説。まだ新しい小説だから、ネタバレはなしないのでご安心を。
この物語は謎の本をめぐる物語。いきなり著者の森見さんが登場する。彼が学生時代に読んだ『熱帯』という架空の本がある。その本を読みかけて気に入ったけれど、結末に近づくと本が消えてしまった。
それで続きが気になるので、書店等で探した。ところがそんな本は誰も知らない。でも東京である読書会に参加したとき、同じ経験をしている人に会った。その人も結末を知る前に本が消えている。実は同じ経験をしている人が何人かいるけれど、誰も結末を知らないという物語だった。
そこから舞台がガラッと変わる。この『熱帯』について、同じように物語の結末を求めている人たちが登場する。定期的に集まってそれぞれの記憶をつなげることで、どうにか物語を完成させようとしていた。だけど肝心な部分が抜け落ちている。
しかしその一人に大きな進展がある。『熱帯」には魔法がかけられていて、ある人物がその魔法の世界に取り込まれてしまう。そして『熱帯』の結末を自ら体験することになる。
これ以上書くとネタバレになってしまうので、ここでやめておこう。ファンタジーであり、パラレルワールドを扱った作品。同時に自分自身の物語を生きることで、世界が変わることを実感できる作品でもある。
それは他人には決してなし得ない、ボクやあなただけの物語。そしてそれが人生を象徴しているんだと思う。著者自身がこの作品について語っている文章を見つけた。それを読んでもらえば、この作品の雰囲気を感じてもらえると思う。
「まず、同じ本を読んでも読書体験は一人一人違うし、同じ人間でもコンディションによって違うものですが、自分が本を読んで体験していることを立体的にしようと思いました。それで、前半は読者として経験することを物語にし、後半は物語が生まれる過程、つまり作者の中で起きていることを小説にしてみたんです。この本を読む人は、読者として入って作者として出ていくことになりますね」
まさにこのとおりの物語だった。登場人物と一緒になって『熱帯』の結末を体験したあと、自分にも同じことが起きているように感じる。とても不思議で魅力的な作品だった。
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