営業の基本は雑談力
間もなく二十代を終えようとする30年ほど前、ボクは税理士事務所を退職して飛び込み営業の仕事に就いたことがある。学習塾の勧誘で、会社が名簿業者から購入した資料を手にして、一軒一軒飛び込みで営業する。
真夏の炎天下でも、真冬の吹雪でも、そして台風の暴風雨でも革靴の底がすり減るまで歩き続けた。基本は歩合給なので、契約が取れないと収入にならない。だから必死になって営業ノウハウを身につけようとした。
上司からいろいろなコツを教わった。善意の恐怖を与えることや、限定話法というのもそうしたテクニックのひとつ。だけどもっとも大切なことは、顧客に話をさせることだ、と上司に言われた。
営業マンは自分の売りたい商品をアピールするために、ついつい話し過ぎてしまう。そうすると言葉が『立て板に水』となって、相手の心に響かない。だから大切なのは子供の親に話しをさせること。
両親が子供にどうなって欲しくて、現状の何が不満なのかを話させることが大切。問題点がわかれば、解決策を提示できる。ここまで来れば、書類に印鑑を押させるのは意外にスムーズ。キツい仕事だったけれど、多くのことを学ばせてもらえた貴重な時間だった。
そんな営業の基本は、ネット社会になっても揺るがない。ただし顧客の気持ちを聞き出すのは、営業マンでなくAIという時代になってきた。
AmazonやGoogleが、「雑談できるAI」を熱心に研究する“超現実的”な理由
GAFAと呼ばれているGoogle、Amazon、Facebook、Appleという企業を中心として、雑談できるAIの研究が進められているそう。すでにAppleのSiriなどは、かなりの雑談力を有している。つまらないことや、突飛な質問に対しても、ユーモアを混じえて答えてくれる。
GAFAたちが現在利用しているのは、ネットでの履歴情報。どんなサイトを閲覧したか、どんなことを検索したかをチェックして、それに見あった商品のCMを流してくる。そうした情報収集をさらに深めていこうということで、雑談できるAIが研究されているとのこと。
これは最初に書いた、顧客に話させるという営業の基本を意識したものだろう。AIと雑談することで、普段から興味を持っているものや、顧客が意識していない潜在的な欲望までチェックできる可能性がある。
そのシステムがユニーク。AI自身が『自己開示』するような構造になっている。まずはAIが心を開く。心理学的にいえば、相手が自己開示することで、こちらも心を開いてしまうそう。その習性を応用したアルゴリズムがプログラムされている。
コロナ禍によって自宅で過ごしている人が多い。一人暮らしなら人恋しくなって、ついAIに話しかけてしまうかも。そうなるとAIにすれば営業のチャンス。雑談をすることで、相手のニーズを引き出すことができる。まさに現代的な営業方法だよね。
ボクが飛び込み営業をしていたころとちがい、いまは訪問販売が難しい。セキュリティの問題があるので、各家庭の扉は固く閉ざされている。だけど営業の基本は変わらない。そういう意味では、AIによる顧客情報の収集がますます激化していくんだろうなぁ。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
コメント (0件)
現在、この記事へのトラックバックは受け付けていません。
コメントする