解放という名の闇落ち
待ちに待っていた作品が、Amazon prime videoでようやく配信された。ある程度の評価は目にしていたので、心の準備はできていたはずだった。
ところがそんな心づもりなんか、宇宙の果てまでぶっ飛ぶほどの素晴らしい内容だった。現代の格差社会を象徴した作品だとか、暴力礼賛の内容だという噂は知っている。だけどそんな評価が、なんともいえない陳腐なものに感じてしまった。
一人の人間が闇に落ちていく。そんな瞬間の目撃者となってしまったボクにすれば、あまりに悲しく、そして切なすぎて適切な言葉が見つけられなかった。
2021年 映画#102
『ジョーカー』という2019年のアメリカ映画。説明するまでもなくバットマンの宿敵であるジョーカーの誕生を扱った作品。そもそもコミックでもジョーカーの素性については曖昧なので、この映画独自の解釈ということになるらしい。
後にジョーカーとなるアーサー・フレックは、コメディアン志望の独身男性。心を病んでいて、セラピーを受けながらどうにか社会生活をしている。収入源はピエロの仕事で、その合間にコメディアンとして活動している。
母親想いの優しいアーサー。理不尽な暴力を受けても、ただひたすら耐えている。身を守るために同僚から銃を渡されても、それを使うことなんて考えない。バスで小さな子供を見かけたら、その子が笑顔になれるよう変顔だってやってしまうような人物だった。
そんなアーサーがなぜジョーカーとなってしまうのか。その過程を見ているのは本当に苦しい。彼と同じ境遇になれば、誰だって同じようになってしまうのでは、と共感してしまう。これから観る人もあると思うので、そのあたりは映画を観て体感して欲しい。
とにかくアーサーを演じたホアキン・フェニックスが天才だということを、改めて認識した作品だった。この作品でオスカーを受賞したのは当然だし、他の作品でも彼の天才ぶりを十分に感じてきた。マジですごい俳優さんだと改めて思った。
アーサーが闇に落ちる瞬間、彼の全身からは歓喜の想いが放出される。もちろんその背景にあるの悲しみであり、怒りだろう。だけど自分の行動を縛っていた常識や倫理観、さらに母親を含めた人間関係を手放したことで、アーサーが人生の重荷から解放されてジョーカーと化したのがわかる。
これまでボクのなかで最高のジョーカーは『ダークナイト』のヒース・レジャーだった。その想いはいまも変わらないけれど、この作品のホアキン・フェニックスのジョーカーもほぼ同列で並んでいる。まったく甲乙つけ難い。
そう思いながら二人の写真を見ていて、なんとなく不思議な因縁を感じた。どちらもジョーカーを演じたことでオスカーを受賞している。そしてヒース・レジャーは薬物中毒で命を落とし、ホアキン・フェニックスの兄であるリヴァー・フェニックスも薬物で若くして亡くなっている。
ジョーカーというキャラから発している悲哀が、この二人の共通点と無縁ではないような気がしてきた。
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