文字という病にかかった司法
ボクが死刑制度に反対なのは、死刑の残虐性だけではない。もっとも恐ろしいのは、冤罪によって死刑執行されてしまう可能性があるから。
もし死刑を免れたとしても、長期の収監はその人の人生を奪ってしまう。そんな冤罪の恐ろしさを啓発するため、ある映画監督が行動を起こした。
その監督とは『Shall we ダンス?』という映画を監督された周防正行さん。
周防正行監督が大崎事件の再現動画。供述の矛盾点つき「文字という病に囚われている」と司法に警鐘
ボクはよく知らなかったけれど、40年以上も再審請求がなされている大崎事件というものがある。1979年に42歳の男性が遺体で発見された。逮捕されたのは義姉にあたる原口さんという女性。現在では93歳という高齢だけれど、ずっと無罪を主張されていたそう。
原口さんを支援する人たちの主張は、亡くなった男性の死因が自転車による事故死というもの。ところが3度の再審が実施されたにもかかわらず、被告の主張は認められていない。そこで今年の6月に実施される証人喚問に向けて、周防監督が協力することになった。
周防さんが感じられたのは、司法が供述証拠に頼りすぎていること。文字での情報しか判断をしないので、判断を誤っている可能性があると感じられた。周防さんはこう述べておられる。
「たとえば、遺体を『放り投げる』という供述。これはどう投げているのか、何がわかっていないということが分かる。(供述証拠に頼り)文字という病に囚われている司法制度には問題がある。今回、文字を空間に起こす作業をすることは、彼らが何を言っているのか探るという作業だった」
そこでスタントマンを使って事件が再現された。その様子を記事から抜粋してみよう。
『周防監督による映像資料は、スタントマンを使って現場を再現した。自転車から転落した男性を近隣住民2人が、軽トラックの荷台に乗せて被害者の自宅まで運び、首への損傷で自宅に着いた時点で既に死亡していた可能性が高いことを示す。
撮影を終えた後、同様の再現を周防監督のもとで行い、再審を審理している鹿児島地裁の裁判官と検察官が事件現場に1時間あまり立ち会った。弁護団によると、裁判官がこうした現場を訪れるのは異例で、現場の視察は第1次再審請求時の96年以来、24年ぶりだった』
文字という病にかかっている司法としては、この動画を見ることで強く感じることがあるように思う。文字で表現できないものを見せるのが映画という芸術。そのことをよく知っておられる周防さんだからこそ、こうした映像が撮影できたんだと思う。
今年の6月には、事故死であるという救急救命医の鑑定と、周防さんの動画が証拠として提出されるとのこと。原口さんは罪を認めることになるので、仮釈放の申請をすることなくすでに刑期を終えられている。事実はわからないけれど、もし無実だとしたらその事実が証明されることを願うばかり。
ボクは京都の祇園の芸舞子事務所で働いているとき、取材にこられた周防さんにお会いしたことがある。飾らない素朴な人柄に好感を持ったことを覚えている。周防さんが撮影された動画によって、裁判官たちが文字という病から抜け出せればいいな。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
コメント (0件)
現在、この記事へのトラックバックは受け付けていません。
コメントする