SOLA TODAY Vol.143
医師という職業は、どうも男性のイメージが強いですね。それを裏付ける統計があります。2014年末の段階で病院や診療所に勤務している医師のうち、女性は20.4%です。確率的に女性医師に診察してもらう機会が少ないことがよくわかります。
わたしは歯科検診以外で病院へ行くことが滅多にないのですが、確率が低くても女性医師にかかりたいと思わせる記事があります。
米国の医師会の学会誌で発表された日本人の論文が、ワシントンポスト紙等で報道されて騒ぎになっているそうです。『死にたくなければ女医を選べ』という見出しは、確かに強烈ですね。
その論文は入院してから30日以内の死亡率と、退院してから30日以内に再び入院する確率を、担当した医師の男女で比較したものです。統計学的に有意性を持たせることを意図した研究なので、結果に影響を与えそうな条件を補正したうえで統計をとっています。
さらに、女性は軽症患者しか診察していないのではないか、という声が出るのを予想して、米国特有の「ホスピタリスト」のデータも加味しています。入院患者の診察しか行わない内科医のことで、医師が患者を選ぶことはできませんし、患者も医師を指定することができません。勤務時間内に入院した患者を自動的に担当することになるからです。
この「ホスピタリスト」に限定した統計でさえ、30日死亡率は男性医師で11.2%、女性医師では10.8%です。30日以内の再入院率も、男性医師で15.1%、女性医師で14.6%という結果が出ています。だから「ホスピタリスト」を含めない統計をとれば、同様に男性医師の方が高い数値となります。
数字だけを見ているとあまり差がないように思えますよね。でもこの男女差は、見過ごすことのできない「統計学的に有意」だと断言できるものだそうです。このデータを見る限り、やはり女医さんの方が生きる確率が高いということです。計算の誤差では説明できない、「明らかな理由」があるという結果です。
もし女性医師がすべての医療を担当したとすると、メディケアと呼ばれている米国の高齢者や障害者用の医療システムだけでも、年間で3万2000人の命が救えることになるそうです。ここまで具体的な数字が出るとさすがに驚きますね。
その理由として考えられることを、この論文を書いたハーバード公衆医衛生大学院の津川さんがこう述べています。
『一般に女性医師は、診療ガイドライン(GL)などルールの遵守率が高く、エビデンス(科学的根拠)に沿った診療を行うほか、患者とより良いコミュニケーションを取ることが知られている。また、女性医師は専門外のことを他の専門医によく相談するなど、可能な限りリスクを避ける傾向がある』
えっ、普通の医師ってすべてこうだと思っていました! ちがうのですね。当たり前のことを当たり前にやっていれば、どの医師も津川さんの言ったとおりのことをしているはずです。だから医療現場において、女性に比べて男性医師は自分独自の判断で診察をしているということです。
基本に忠実な診療をすれば、何万人という人が死なずに済むかもしれません。アメリカの統計ですが、世界的なレベルで見るともっと大きな数字になるはずです。津川さんはアメリカの現状について語られています。
「一般の方は病院を選ぶ際に、病院ランキング本や口コミを参考にしていると思いますが、評価の根拠は曖昧です。また、評判の良い病院で働いているからといって医師個人の医療の質が高いとは限りません。米国でも事情は同じです」
これは日本でも言えることだと思います。津川さんは日本でもこの研究を進めたいとのことで、「どの病院でどの医者にかかっても標準化された高い質の医療を受けられるというのが研究の最終的な目標ですね」と締めくくられていました。
最初に書きましが、女医さんに担当してもらえる確率はかなり低いです。総合病院なら女性の担当医をチェックして、その医師の診察日を選ぶしかありません。あるいは個人の開業医を探すかです。でも急な病気の時に、そんなことをしている余裕はありません。
やはり津川さんが言われているように、男女差が出るような医療体制自体を変えていくしかありません。当たり前のことを当たり前にするということを、命を預かる医師の方にはやっていただきたいと感じました。そしてもう一つ。
やはりAIの導入が求められてくると思います。先日も医師が発見できなかった病気を、AIが見つけたという記事がありました。当たり前のことを当たり前にすることほど、AIが得意とする分野はないでしょう。そのあたりにも期待したいと感じた記事でした。
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