SOLA TODAY Vol.195
ボクが幼いころに好きだったのが、家の建築を観察すること。通学路に建設中の家があると、飽きることなく一人で見学していた。
当時の住宅は今とちがって、家が完成するまでに時間がかかる。現代のように工場で作ってきた部品を現地で組み立てるのではなく、大工さんが墨壺とタコ糸で印をつけて、現場で材木を加工しながら作業をしていた。
壁を塗るのだって、藁を混ぜたりしてから左官屋さんが手作業で進めていく。少しずつ家を完成させていく大工さんたちを見ていると、まるで魔法使いのように思えた。家が建つまでの時間の長さが、その魔法にかえってリアリティを感じさせる。
でも最近の建築現場を見ていると、基礎ができたなぁと思っていたら、数日後には棟上げが完了して屋根がついている。そして工場で加工された壁があっという間に貼り付けられて、2ヶ月もあれば『家』の外観はほぼ完成してしまう。
ところがどっこい、最新の建築はもっと早い。1日で家が建ってしまうらしい!
3Dプリンターを使ってわずか24時間で家を一軒まるごと極寒のロシアで建造することに成功
家といっても、それほどたいそうなものじゃない。こんな雰囲気の建物。
それでもこの家の外観が、たった24時間で完成する。それは3Dプリンターを使うことによって可能となった。
この記事でアップされている動画を見て、さすがに驚いた。大工さんなんていない。3Dプリンターがたった1人(1機かな?)で、黙々と家を作っている。
最近読んだ本に書いてあったけれど、3Dプリンターには2つのタイプがある。何もない場所に素材をアウトプットしてゼロから積み上げていくタイプ。もう一つは彫刻のように、大きな素材の塊から目的のものを削り出すタイプ。この家は、前者の方法によって建てられている。
今までも3Dプリンターによる家の建築はトライされてきた。でも3Dプリンターは部品を作る過程で使用しているだけ。そうしてできた各部品をトラックで運んで、人間が組み立てていた。
ところがこの3Dプリンターは、現場でゼロから家を建ててしまう。記事からそのプリンターの概要を引用してみよう。
『Apis Corの3Dプリンターはアーム部の全長が4メートルで高さは1.5メートル。重さは2トンと非常にコンパクトです。
必要に応じて脚とアームが伸び縮みし、プリンター自体の高さは最高で3.1メートル、アームの長さは8.5メートルまで伸ばすことが可能で、最大で高さ3.3メートルの建物を「プリント」することが可能です。
また、建築用のコンクリートをまぜるミキサーを筒の中に内蔵しています。コンパクトなマシンですが、1日に最大100平方メートルの建物を出力することができます』
なるほど、こりゃすごいわ!
軽量なので、トラックでこのプリンターを現地まで運ぶことができる。部品は必要ないから、どんなユニークな曲面を持ったデザインでも簡単に作ってしまう。
もちろん家の強度は問題ないし、この家のようにマイナス35度の環境でも建築できる。人間が作業しないからね〜!
この建物は38平米の広さで、建築にかかった費用は約115万円。コスパも素晴らしい!
豊臣秀吉がまだ若いころ、『墨俣の一夜城』というものを建てた。たった一晩で城を作ったという話。実際には砦みたいなもので、一晩で完成したわけじゃないだろう。いわゆる都市伝説みたいなもの
でもこの3Dプリンターを使えば、それが都市伝説じゃなくなる。映像を見るだけで笑っちゃうよ。黙々と文句も言わずに家を作っている。なんだか意地らしくて、とてもキュートに思えてくるから不思議。
日本の場合、建築法が追いつくのに時間がかかるだろうけれど、これからはこういった家が増えてくるかもしれないね。建築家としても設計できる範囲が広がると思う。災害時における仮設住宅なら、このプリンターを使えば短期間で住宅を提供できるはず。
いやはや、すごい時代になってきたよね。大工さんも機械に仕事を奪われるかもしれない。ボクが子供のころに体験したような建築の世界は、夢のなかの出来事のように消えていくんだろうなぁ。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。