SOLA TODAY Vol.233
ボクは子どものころから、ひとりでいることが苦痛じゃなかった。どちらかといえば、好んでいたと思う。
幼いころに家族で海へ行ったとき、ひとりでいつまでも打ち寄せる波を見ていて、「変な子供や」と親に言われたことがあるほど。
そんなボクでも孤独というものは辛い。他人との関わりがなければ、生きていけないと思う。
ところが一般の人間が感じる孤独なんて、本当の孤独とは思えないような記事を読んだ。
アメリカのメイン州で、窃盗の容疑で男性が逮捕された。ナイトという人で、無人の別荘に侵入しては、食料や電池、そして本などを盗んでいた。ナイトの供述によると1000回以上の盗みをはたらいてたらしい。
逮捕して調べてみると、ナイトは20歳のころに失踪して、それから27年ものあいだ、たった一度も人と接触せずに生きてきたことがわかった。その別荘地では、以前から窃盗事件が話題になっていた。犯人が男なのか女なのか、愉快犯なのか殺人者なのかわからなかったからだ。
ナイトの家庭は裕福ではないが、中流程度の暮らしてしていた。工夫をこらし、寒い冬でも暖房機の必要がないような生活だったらしい。ただ普通の家と子供の育て方にちがいがあったようで、20歳の時に失踪したナイトについて、家族は捜索願を提出しなかった。彼の生き方を知っていて、尊重したのかもしれない。
冬の寒さが厳しい別荘地の山中にテントを張り、たったひとりで27年間も過ごしていた。自分が過ごしてきた家庭の影響なのか、暖房のない生活をしていた。普通の人間なら、強烈な寒さと孤独で生きていくことなんてできないだろう。
ナイトが犯罪者であることはまちがいない。他人の物を盗んだのだから。
けれども武器になるようなものをいっさい所有していないし、他人と遭遇していないから誰も傷つけてはいない。別荘に侵入するときも、器用に鍵を外したらしい。窓ガラスを破壊するようなことはせず、きちんと鍵をかけて出てきたとのこと。
あるジャーナリストがナイトに興味を持ち、インタビューすることで本を出している。そのジャーナリストの気持ちがわかる。
ナイトが27年間、どんな気持ちで生きてきたのか興味がある。食料だけなく本を盗んでいることから、かなりのインテリだと想像できる。事実インタビューに答えるナイトの言葉を読むと、自分の哲学をしっかりと持っているように思えた。
ナイトを称するとしたら、『隠者』という言葉が適切なのかもしれない。この記事によると『隠者』には3つのタイプがあるらしい。
抗議者、殉教者、追求者の3つ。
キリストやブッダも『隠者』となったが、この3つにあてはまる。だがナイトに関していえば、そのどれにも合致しないらしい。
何かを成そうとしたのではなく、きっとこの世界に自分の居場所がないと思ったのだろう。他人と関わっていくためには、自分という人間をある程度加工しなければいけない。ありのままに生きようとすると、必ずどこかでぶつかるし、攻撃されることになる。
もし食料や住居に心配がなければ、ナイトは窃盗をすることなく、寿命が尽きるまでひとりで生きたと思う。
そんな条件が整うのならば、自分もそうしたいと思う現代人は大勢いるような気がする。孤独の辛さよりも、他人と関わる苦しみから逃げたいと思う人がいても不思議じゃない。
子どものころからひとりが好きだったボクには、そういう生き方をしたいという人を否定できない。否定はしないけれど、ボクにはできない生き方だ。いろいろなことを考えさせてもらえた記事だった。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
コメント (0件)
現在、この記事へのトラックバックは受け付けていません。
コメントする