赤の他人の幸せは伝染する
神戸の図書館は閉館中なので、自宅所有の本を読んでいる。だけどあまりに数が少ないので、先日から電子書籍も併用している。
図書館も電子書籍での貸し出しを解禁してくれたら、いまのような状況でも利用できるのにね。だけど技術的には可能でも、全面解禁は無理だろうな。
出版社にしてみれば、紙の本を一定数購入してくれる図書館の存在は大きい。それに人気本だと予約を待てない人が、書店で購入してくれるかもしれない。でも電子書籍での貸し出しを図書館で無料解禁すれば、書店で本を買う人が大幅に減るだろう。
かといって自治体が読まれた回数に応じて、出版社に費用を負担するとは思えない。何か大きな変革がなければ、公営の図書館で電子書籍が全面解禁になることは難しいだろうなぁ。
仕方ないのでKindleで電子書籍を読んだ。これがまた素晴らしい作品だった。
『山本周五郎作品集一』山本周五郎 著という本。
ドラマや映画で時代劇が制作されると、原作者として山本周五郎さんの名前を何度も目にする。そしてそれらは人情味のあるドラマとしてよく知られている。だけどじっくりと原作を読んだことがなかったので、この機会に読んでみた。
3作の短編から中編が収められた作品集。どの作品も素敵な物語で、心がポカポカになって幸せな気分になれる物語ばかりだった。簡単に紹介しておこう。
『あだこ』
若い侍が主人公。許嫁がいたけれど、その女性は好きな人ができて駆け落ちしてしまった。失意のなかでウツ状態だった一人暮らしの彼に、突然女中に雇ってくれという若い田舎の女性がやってくる。
最初は拒絶するけれども、やがてその女中の素晴らしさに気づいていくという物語。きっと二人は結ばれるんだろうな、というエンディングだった。
『晩秋』
岡崎藩の出来事。武家の娘が主人公。父親は藩の重役の悪政に反抗したことで自害した。その仇を打つことが娘の悲願だった。そしてそのチャンスがやってくる。その重役は藩主が変わったことでお役御免となった。そしてある屋敷でのお預かり処分となる。
主人公の娘はその重役の世話役を任される。ようやく父の仇を果たせると意気込む。ところがその重役の真の姿を知って、敵討ちを思いとどまるという物語。二人のキャラが素敵で、感動的なラストだった。
『おたふく』
ボクが一番気に入った作品。彫金師の職人が主人公。凄腕の職人なんだけれど、酒だけが生きがい。だから家族を持つことなんて考えていなかった。だけど自分の師匠から勧められて、年増の長唄の師匠を嫁に迎える。
最初はつれない態度をとっていたが、その女性が本当によくできた人物。歳の割には器量よしで、何かと気がつく。ところがある日、妻のタンスから高額で取引されている自分の作品を見つける。それはある金持ちのために作って売ったものだった。
女性に関心がなかったはずなのに、気がついたら妻が愛しくて仕方ない。おそらくその金持ちの囲われていたことがあったと疑い、その職人は嫉妬に狂う。そして自暴自棄になったとき、妻の妹から真実を聞かされる。めちゃめちゃ感動するエンディングだった。
どの物語も主人公たちが幸せな結末を迎える。こういうのって、読んでいる自分にまで伝染してきて幸せな気分になるよね。
『人の不幸は蜜の味』という嫌な言葉があるwww
これは基本的に利害関係のある人の場合が多いだろう。自分と利害関係のある人なら、その人の幸せに嫉妬してしまう場合がある。あるいはその人が不運な目にあったら、うれしくなるかもしれない。
だけど物語の登場人物のように、赤の他人の幸せは心から喜べる。そしてその気持ちがストレートに伝わってくる。物語のメリットは、こういうところにもあるんだろうね。山本周五郎さんの小説を、この機会にもっと読んでみようと思う。
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