今を輝かせる過去の受容
昨日のブログでは、ロバート・レッドフォードが俳優として最後に主演した作品を紹介した。そして偶然にも、今日観た映画もある俳優の最後の主演映画だった。そしてそれは本当に最後で、その俳優の遺作となった。
2021年 映画#42
『ラスト・ムービースター』という2017年のアメリカ映画。この作品が遺作となったのは、主演のバート・レイノルズ。ボクは『キャノンボール』という映画が大好きで、バート・レイノルズといえばその作品名が出てくる。だけどそれ以外の作品は、あまり記憶に残っていない。
事実1980年代の後半になって人気に翳りが見え、1997年の『ブギーナイツ』という作品でアカデミー賞にノミネートされるまでイマイチの状況だったそう。かなりの映画には出演していたけれど、作品に恵まれなかったのかも。
そんな彼の人生を彷彿とさせるのがこの作品。バート・レイノルズにとってセルフパロディといえる作品で、調べてみるとこの映画の主人公は彼と同じような経歴となっている。学生時代にアメフトをやっていたのまで同じ。
過去には一世風靡したけれど、その後は落ちぶれてしまった俳優の姿を描いた作品。ヴィック・エドワーズはハリウッドでは名を知られた名優。アクション映画の俳優として名を残していた。だけどそれはずっと昔のこと。老人となった彼は過去の人間となっていた。
ところがある日、ナッシュビル映画祭から招待状が届く。彼に功労賞を授けたいというもの。最初は躊躇していたけれど、過去にはロバート・デ・ニーロやアル・パチーノも受賞していると聞いた。そこで思い切ってナッシュビルに行くことにした。
ところが著名俳優が本当に受賞していたのは国際ナッシュビル映画祭で、エドワーズが招待されたのは若者たちが主催する貧乏な映画賞だった。プライドが傷ついたエドワーズは、かんしゃくを起こして主催者たちともめる。
このあたりの自虐的なシーンは、なかなか見応えがある。エドワーズがデ・ニーロやパチーノになれなかったのは、過去の選択を誤ったからだと自虐的なセリフを吐いている。まるでバート・レイノルズ自身の言葉のように。
さらにバート・レイノルズの過去の映像が重ね合わされることで、年老いたエドワーズと若いエドワーズが会話をするシーンまである。年齢を重ねることの切なさをしみじみと感じた。「気がついたら時がお前を追い越していく」というセリフはいまのボクにも胸が痛い。
比較的新しい映画なので、ネタバレはやめておこう。この映画の見どころは、運転手役を努めた若い女性のリルとのやり取り。最初は面倒がっていたリルが、少しずつ老人のエドワーズに心を開いていく。そしてラスト近くでは、二人であることを決行する。
それはエドワーズにとってこの人生における別れの挨拶であり、心残りの解消だった。過去の失敗を認め、それを受容することでもある。そのシーンを見て、ボクは本気で泣いてしまった。
この映画が公開された翌年に、バート・レイノルズはこの世を旅立った。82歳だった。おそらくこの映画は、そんな自分の死期を無意識に感じていた彼の想いが詰まった作品なんだと思う。心温まる、本当に素晴らしい作品だった。
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