SOLA TODAY Vol.208
SF小説って、純粋に楽しむものだと思っている。その作品が映画化されたりすれば、さらにその楽しみが広がる。
だけどSF小説を娯楽としてではなく、自分たちの仕事に生かそうとしている組織がある。
それはアメリカの海兵隊。
軍隊において、過去の歴史から教訓を学ぶことは欠かせない。どのような状況によって戦端が開かれたのか? その戦争はどういう展開を見せたのか? そしてそれを終わらせた要因は何なのか?
過去の事実を知ることによって、訓練の方向性や防衛費の使い方が決められていくのだろう。だけど今の時代、過去を学ぶだけでは追いつかない。未来を知ることのほうが重要になっている。
そこで海兵隊は、訓練の一環としてSF小説を取り入れているらしい。小説というジャンルの新しい方向性のひとつとして興味深い。
その小説は出版されているものから採用されるのではなく、海兵隊の依頼によって新たに書かれている。著名な作家が集まってプロジェクトを組むことで、その内容が決められている。
それは、15年後、30年後の未来に直面するかもしれない脅威について考えるための、海兵隊の訓練用に書かれたSFの短編だとのこと。
『Water’s a Fightin’ Word』という作品は、水不足に世界が喘ぐなか、アフリカで人道支援を行う海兵隊が四方を包囲されるような状況が綴られている。エクソスケルトン、エレクトロマグネティック・パルス・ウエポン(電磁パルス兵器)、肉弾戦にも対応できるロボットといった最先端の軍事技術を物語に登場させつつ、水資源をめぐる地政学的なシナリオを展開する。
なんだかすごい物語だよね!
その他の作品としては、大地震に襲われたあとの台湾における中国派部隊と台湾派部隊の内戦を描く『Double Ten Day』や、遺伝子操作技術を利用してつくられた生物兵器が米国に脅威を及ぼす様子を描く『The Montgomery Crisis』などが含まれている。映画になっても不思議ではない内容ばかりだと思う。
海兵隊がSF小説を訓練に採用した理由として、軍の関係者がこのように述べている。
「上級士官は、来るべき世界を想像し、それに備えるために必要な投資が何かを考えることができます。そして少尉や下士官は、彼らがいつか上級士官や中級士官となったときにどんな世界が訪れているかを想像し、そうした未来が現実になったときに動揺しないようにすることができます」
なるほど。とても説得力のあるコメントだよね。
フィクションというものは現実とはちがう。だけど自分たちが経験していない世界をイメージしたり、そこから得られるであろうことを感じることができる。
人類が類人猿から分かれて進化した最大の理由が、「フィクションを信じられること」だと聞いたことがある。そういう意味では、とても理にかなった訓練なのかもしれない。
小説の新しい可能性として面白いし、将来は海兵隊で訓練用に作られた物語が映画になるかもしれない。きっとリアリティの高い作品になるのだろうね。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
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