SOLA TODAY Vol.317
日本が「安い国」だと自覚しているだろうか? えっ、そうなの? と思う人は、かなり時代感覚がズレているから注意したほうがいい。
今の日本はどんどん貧しくなっている。平均年収を比較すると、ヨーロッパの先進国のほとんどに追い抜かれている。旧共産国の貧しいと言われた国々が、平均年収ですぐそこまで追いついてきている。
ある記事で読んだけれど、エストニア人が日本に滞在したときのカルチャーショックを話している。日本の外食が嘘みたいに安いので、かなり驚いたとのこと。
なぜ、そしていつから、日本はこんなことになってしまったのか? そのヒントになるような記事がある。
先ほど書いた平均年収だけでなく、GDPでも日本は順位が下がる一方。2015年に世界で27位だった「一人当たりのGDP」が、2016年の最新情報では30位に下がっている。この記事の著者は、その原因を探ってみた。目に見えて他国と差がついているのが、サービス業のGDPとのこと。
サービス業のGDPだけでみると、日本はG7諸国の最下位で、経済不況のイタリアにも負けている。要するに、サービス企業の生産性が著しく低いということ。
良いものを安く、というのが日本の信条だろう。その信条で高度経済成長時代には世界の経済を牽引してきたし、1990年代に入ったころにもその勢いは衰えていなかった。
日本人は真面目に働いて上質なサービスを提供してきた。生産性が悪いとしたら、サービスに見合った対価を取っていないからでないか、と思う人が多いだろう。この記事でもそのことに言及していて、主要文化財の入館料が比較されている。海外の平均は1891円なのに、日本の平均は593円とのこと。
もっと日本はサービスに見合った高い料金を取るべきではないか? だけどこの記事は、そうではないと明言している。各論的にはそれに該当する文化財もあるだろうけれど、総論的に見た場合日本全体として値段が安いだけでなく、明らかにサービスの質も低いとのこと。
海外は高い入館料を取っているけれど、それに見合ったサービスを提供している。日本の数倍の修理費用をかけてより良い保存状態を維持したり、解説や展示も充実させ、飲食店等も併設している。
日本人はたしかに真面目。だけど記事の著者はこう言っている。
「まじめに働いているかどうかよりも、今の需要に応えられていない部分、おカネにならない仕事を優先したり、おカネになる仕事をやらなかったりしている部分があるのではないかということです」
つまり古くからのやり方を真面目に踏襲しているだけで、今の時代にあったものに変えていこうという努力がなされていない。それゆえ無駄が多く、費やした労力に対する成果を得られることができずに、生産性の低下を招いているということだろう。
日本が「安い国」に移行し始めたのは、1990年代の半ばころ。その理由がわかるだろうか?
ボクはこの記事を読んで、なるほどと思った。そう、世界中にIT革命が広がり始めた時代だから。技術革新により、IT投資が生産性の向上に欠かせない時代になった。諸外国はそのことをよく理解していて、文化財等の展示にもITを活用している。
だけど日本の場合はITを導入しても、根本的な改革を行っていない。組織のあり方や仕事のやり方について、今までどおりのものを手放せない。年功序列や終身雇用なんかがその例。
この記事で面白い例があげられている。銀行の窓口が午後3時に閉まる理由を知っているだろうか?
それはまだ銀行が、そろばんや手書きの帳簿を使っていた時代の名残らしい。以前は午後3時に締めないと、午後5時までに数字合わせができなかったから。でも今はATMがあり、現金は機械が数えてくれるし、帳簿もデジタル化されている。
サービス業として顧客の利便性を考えるなら、午後3時に店舗を閉める理由など今はまったく存在しない。だけど誰も疑問に思わず、銀行はそういうものだと慣習的に続けている。こういう部分で、サービス業の生産性低下を招いているのだろう。
とても興味深い記事だった。日本に大勢の観光客が訪れている最大の魅力は、とにかく物価が安いから。そのうちアジア諸国が自国の人間を使うより、安い賃金で働いてくれる日本人を使って生産を外注する時代になるかもしれない。
今の日本が抱えている問題点を明確にしてくれた、とても興味深い記事だった。
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