ブレイクするときのパワー!
どんな職業の世界であっても、ある人間がブレイクする瞬間のパワーはすさまじい。まさに宇宙へ向かうロケットが大気圏を突破するようなものだ。
その圧倒的なパワーがやってくる場合、2つのパターンがあるように思う。
ひとつは、本人が予想できない状況でパワーを受ける場合。もうひとつは、圧倒的な努力によってそのパワーを引き寄せた場合。
前者は一発屋として消えてしまい、再び地上に落下することが多い。でも後者はそのまま自由に宇宙空間を泳ぎまわることができる。ハリウッドという世界で大気圏を突破して、現在でも輝くスターとして君臨している俳優の映画を2本観た。
『ゴッドファーザーPARTII』という1974年公開のアメリカ映画。
そしてもう1作は、
『タクシードライバー』という1976年に公開されたアメリカ映画。
これらの映画に共通する俳優は、もちろんロバート・デ・ニーロ。この2つの作品によって、ロバートは一気に俳優という世界の大気圏を突破したと思う。ここ数日のあいだに続けて2つの映画を観ることで、その絶大なパワーを現在でも感じることができた。
『ゴッドファーザーPARTII』の主人公は、もちろんマイケルを演じるアル・パチーノ。ところがこの映画は2つのストーリーが同時進行している。過去に何度も観た作品だけれど、改めてその構成の素晴らしさを感じることができた。
そのもう1つのストーリーが、1作目でマーロン・ブランドが演じたヴィトー・コルレオーネの若き日を描いた物語。主人公のマイケルの父親であるヴィトーがマフィアとして権力を手にする姿を、ロバートが演じている。
この映画でアカデミー賞の助演男優賞を受賞することになり、彼の名前は世界中に知られることになった。それも当然だと言えるほど、本当に素晴らしい演技だった。久しぶりに観て、思わずうなってしまったほど。
家族を愛し、同胞を愛する。それゆえにヴィトーは力を手にしようとする。もちろんマフィアのドンとなるのだから、合法的な手段ではない。最初のきっかけは、地元のドンを殺すことだったから。
ところがヴィトーはそうして力を溜め込むと同時に、信頼できる仲間を増やしていく。家族にも恵まれ、まさにゴッドファーザーとしての地位を確立していく。その姿を演じたロバートの演技が素晴らしいことによって、同じ目的で必死になっているマイケルとの対比が浮き彫りにされる。
家族を思い、同胞を思うのに、マイケルは孤独になっていくばかり。なぜ父のようになれないのか? そんなマイケルの苦悩が、ロバートの演技の素晴らしさによって間接的に演出されている。もちろんフランシス・フォード・コッポラという名監督がいたからこそだと思う。
そして2年後に公開された『タクシードライバー』で、ロバートは完全に大気圏を脱することになる。それほど素晴らしい映画だと思う。マーティン・スコセッシ監督の代表作でもあるこの映画は、主演したロバートにとっても代表作であることはまちがいない。
ベトナム帰還兵であると思われる主人公のトラヴィスの隠された狂気は、ロバートの演技の全てに集約されていると思う。たったひとつのセリフ、たったひとつの笑顔のなかに、その狂気が写し出されている。よくこんな映画を作ったなぁ、と何度観ても感心してしまう作品だ。
まだ10代だったジョディ・フォスター演じるアイリスという女性を助けることに、自分の生きる証を求めようとするトラヴィス。それを成し遂げなくては、自分という人間の存在価値を見失ってしまう。誰にも愛されず、誰にも必要とされない人間。
そんな自分と決別するために、何としてもアイリスという家出少女の売春婦をポン引きから逃がそうとする。その痛いほどのひたむきな狂気が、映画を観ている人に感染してしまう作品だと思う。
『ゴッドファーザーPARTII』では、若き日のマーロン・ブランドを演じるために、徹底的にその演技を研究したロバート。あの独特のしゃがれ声を模写するだけでなく、実際にシチリア島に住み込んでイタリア語をマスターしたという逸話がある。
登場シーンのほとんどがイタリア語なのに、アメリカ俳優のロバートががオスカーを受賞したという事実は、その努力が半端でないことがわかる。
さらに『タクシードライバー』では、実際に3週間ほどタクシードライバーを経験している。そこまで自分が演じる役になりきろうとする執念。『レイジング・ブル』という映画ではボクサーの精悍な肉体と、そこから20kg太った身体を披露した。
主人公がユダヤ人である『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』という映画では、ユダヤ人の家にホームステイしている。『ミッドナイト・ラン』というボクの大好きなコメディ映画では、実際の賞金稼ぎに同行して、そのすべてを身につけようとしたとのこと。
何かのはずみで俳優としての大気圏を突破したのではなく、そうなるべく努力を重ねたうえで突破している。だからこそ70歳を過ぎた今でも、第一線の俳優として活躍しているのだと思う。
どんな人にもチャンスは訪れると思う。でもそのときに、どのように生きているかでちがってくる。そんなことを考えさせてもらえた、素晴らしい2本の映画だった。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
コメント (0件)
現在、この記事へのトラックバックは受け付けていません。
コメントする