銃被害がアメリカで続く理由
社会の現状や隠された事実を明らかにすることにおいて、小説や映画というフィクションが果たす役割は大きい。物語という架空の世界をクッションにすることで、ストレートではないけれど真実を語ることができる。
だけどもっとも効果的なのはノンフィクションだろう。事実を伝えるということに関して、ドキュメントに勝るものはない。ある映画を見てそう感じた。
『ボウリング・フォー・コロンバイン』という2002年のアメリカ映画。監督は写真のマイケル・ムーアで、鋭い視点を持つドキュメント映画の監督して知られている。この映画は1999年にコロラド州のコロンバイン高校で起きた銃乱射事件について取材したもの。
犯人は二人の高校生で、12人の生徒と教師を含む13人が命を落とした。そして犯人たちも自殺している。その根底にはイジメがあったと言われているが、マイケル・ムーアはアメリカの銃社会に焦点を当ててこの映画を作っている。
冒頭のシーンから驚く。ある州では景品として銃を手にすることができる。マイケル自身もその手続きを映画のなかで進めて、ライフル銃を手にしている。州によっては多少のちがいはあるけれど、アメリカで成人が銃を手にするのは簡単。
だったらそれが銃による死者がアメリカで続いている理由なのか？ マイケルはそのことに深く切り込んでいく。
たしかに銃を手に入れるのが難しいイギリスでは、アメリカに比べて銃による被害が圧倒的に少ない。もちろん日本は言うまでもない。ところがアメリカの隣国であるカナダは銃社会。アメリカに負けない比率で大勢の人が銃を所持している。ところが銃による死者数はアメリカと二桁ほどちがう。
そのことをアメリカ人にぶつけると、アメリカは多人種国家だからという答えが返ってくる。
ところがカナダもアメリカに負けず劣らずの多人種国家。だからアメリカで銃被害が異常なほど多い理由とはならない。このあたりの構成は巧妙で、最終的にその結論が明らかにされる。
それは『恐怖』だった。
アメリカという国家の歴史には、その成立時から『恐怖』の感情が根付いている。そしてアフリカから黒人を奴隷として連れてきたことで、さらにその『恐怖』が増幅されることになった。白人も有色人種も、自分の身を守るために銃を手にした。つまりマイケル・ムーアが言いたいのは、『アメリカ人は病んでいる』ということらしい。
かなり作為的な構成ではある。だけどインタビューの様子やその進行手順を見ていると、監督が伝えたいことに納得できる内容だった。恐怖は人を攻撃的にする。そのことを痛感させられた。
ラストで感動したのは、コロンバイン高校での乱射事件で負傷した男性二人が登場するシーン。犯人たちはKマートで買った銃弾で乱射をした。つまり高校生でも銃弾を購入できるということ。
それでマイケルは二人を連れて、Kマートの本社に乗り込んだ。そしてオーナーを呼び出して、そのことについての見解を求めている。最初は広報の人間が出てきて適当にあしらっていたけれど、翌日には大きく態度を変えた。
報道陣が集まるなか、マイケルと二人の被害者に対して声明が発表された。Kマートの正式見解として、今後は店舗において銃弾を販売しないことを宣言した。このシーンは、なかなかの見ものだった。
だからと言って問題が解決したわけじゃない。いまでも銃の乱射事件は後を絶たない。やはりマイケル・ムーアが語るように、アメリカ人は病んでいるのかもしれない。映画を見終わっても、どことなく釈然としない気分になる作品だった。
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