愛する国に裏切られる怒り
人種差別を批判した小説や映画は数多い。そしてどの作品にも作者の強いメッセージを感じる。人種ゆえに差別するという行為は、人類の精神進化が未熟なのを痛感させられる。
近年になってそうした差別を撤廃しようという動きが加速している。それは性の問題にも拡がり、LGBTへの理解も進むようになってきた。落ち着いて考えれば、差別がいいわけない。多くの人がそう理解している。
ただ想定外のことが起きたとき、そんな想いがぶっ飛んでしまうことがある。ある映画を観て、人間の想いがいかに不安定なものかを感じさせられた。
2022年 映画#25
『ミッシング・ポイント』(原題:The Reluctant Fundamentalist)という2012年のアメリカ映画。いやぁ、重い作品だった。切なさに支配された内容で、人種問題や国家間の確執について、無視できないものを突きつけられるストーリーだった。
主人公はパキスタン出身のチャンゲス。映画の冒頭で、アメリカの大学教授がアメリカ排除を主張する過激派に誘拐される。チャンゲスはその教授の同僚で、彼の紹介で教授職についていた。
ジャーナリストを名乗ったボビーが、チャンゲスにインタビューを申し入れた。でもボビーの正体は CIAのエージェントで、拘束されている大学教授の居場所を突き止めるのが目的だった。チャンゲスは学生の過激派にとってリーダーのような存在。だから彼なら誘拐された教授の居場所を知っているはずだと思っていた。
インタビューを通じて、チャンゲスの半生が回想されるという構成になっている。彼は優秀な成績でアメリカの大学を卒業して、大手コンサルタント会社に就職した。ニューヨークで才能を開花させ、次期重役候補まで登り詰めていた。エリカというカメラマンの恋人もできた。
ところが絶好調の時期に911テロが起きる。このテロによって彼の人生は一変する。パキスタン人というだけで、言われのない差別を受ける。ただ歩いているだけで暴言を吐かれたり、警察に捕まって尋問を受ける。
チャンゲスはアメリカを心から愛していた。そしてアメリカはその愛に応えてくれた。職場の友人たちも彼を応援してくれていた。なのに911テロによって、彼は同僚たちからもテロリスト扱いをされる。やがて仕事を辞め、恋人とも別れてパキスタンで大学教授として働くことになった。
この映画の見どころは、チャンゲムはテロリストの仲間なのか、それともアメリカを愛する心を失っていないのか、というところ。その答えが知りたい人は本編をどうぞ。最後までチャンゲムの真意が見えず、CIAの強行突入の時間が迫る。このドキドキ感が良かった。
ボビーとチャンゲムの心理戦が、やがて大きな暴動へと発展してしまう。重くて切ないけれど、見応えのある素晴らしい作品だった。監督がインド人女性なので、差別に苦しむチャンゲムの心がリアルに描かれているせいだと思う。
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