宗教の争いは根が深い
ボクの好きなテレビ番組に『世界ふれあい街歩き』がある。実際に自分が歩いている感覚で、世界中の街の雰囲気を感じることができる。観光地だけでなく、地元の人しか行かないような場所も紹介されるので、再放送を含めて必ず録画して観ている。
2週間ほど前に新作が放映された。イギリスの北アイルランドにあるベリファストという街。北アイルランドの首府で、世界史や映画好きな人には聞き覚えのある名前だと思う。ボクも映画で何度か目にしている。
ベルファストでは1960年代に住民を巻き込んだ紛争が起きた。テロが頻発して、爆弾で大勢の人が亡くなっている。さらに武器を手にした紛争によっても、同じ街の住人が殺し合うことになった。「北アイルランド問題」と呼ばれているもので、紛争が解決したのは1998年。
紛争の元にあるのは北アイルランドの所属問題。南のアイランド共和国に属するべきという人と、イギリスに属するべきという人に別れた。それは同時に宗教的な紛争も絡んでいて、キリスト教のプロテスタントとカソリックとの争いでもあった。
2022年のベルファストは観光地として大勢の人が訪れていた。この街の港でタイタニックが製造されたので、豪華客船の故郷ということで知られているから。実際にタイタニックに乗船していたベルファストの人も多く、今でもそのときに亡くなった人たちの名前が刻まれた慰霊碑が残されている。
紛争は解決したものの、いまだにカソリックとプロテスタントの住人たちを分断する、大きな長い壁が残されている。まるでベルリンの壁を彷彿とさせる威圧感があった。紛争が終わったのは四半世紀ほど前。だから記憶に新しい人が多く、どことなく紛争の影が残っている。
だけど若い世代になって、その壁を超えた新しい家族が誕生していた。番組の最後ではその壁の前で新郎新婦が集まっている映像だった。それはカソリックとプロテスタントの結婚で、新郎新婦の両親は過去に石を投げ合った関係だったそう。だけどいまは家族になれてうれしい、というコメントだった。
そんなベルファストで起きた紛争はどのようなものだったのか。そのことについて深く切り込んだ映画を観た。
2022年 映画#199
『ベルファスト』(原題:Belfast)という2021年のアイルランド・イギリスの合作映画。映画の冒頭はカラーで始まり、現代のベルファストが紹介される。『世界ふれあい街歩き』で見たところがいくつもあった。だけど1969年の紛争勃発の時代になると、モノクロに変わるという効果的な演出がされていた。
監督、そして脚本を書いたのは俳優でもあるケネス・ブラナー。『ハリーポッター』シリーズのロックハート先生役と言えば思い出す人が多いだろう。彼の出身はベルファストだった。だからこの映画に関しては彼の体験も含まれていると思う。
ある家族が紛争に巻き込まれた様子を描いたもの。主人公は9歳の少年なので、ボクと同じ世代になる。両親と祖父母、そして兄と暮らしていた。この家族はプロテスタントだった、同じプロテスタントの過激派が同じ街のカソリックの家を焼き討ちした。
平和な日常が一転する様子は、いま思い出しても目を閉じたくなる。エグい映像はないけれど、人間の暴力が放つ理不尽なエネルギーに圧倒されてしまった。バリケードが築かれたとき、ボクは「街歩き」で見た分断の壁を思い出した。
主人公の父を演じたのはジェイミー・ドーナンで、ボクの好きな俳優。なんと彼もベルファストの生まれだった。さらに祖父を演じたキアラン・ハインズは、これまた個性的な演技で有名な俳優。ボクも他の映画でいつも彼の演技に感動させられている。なんと彼もベルファストの出身だった。
母親役のカトリーナ・パルフという超美人な女優さんはアイルランドのダブリン出身。さらにイギリス代表のように、祖母役でジュディ・デンチが素晴らしい演技を見せてくれていた。ストーリーは家族がロンドンに移住するまでを決めるシンプルな内容。だけど演技が素晴らしいので魅入ってしまう。
住み慣れた街を離れたくない。祖父母は高齢なのでロンドンに連れて行けない。主人公には相思相愛の少女もいるし、仲良しの従姉妹もいる。だからベルファストを離れたくない。だけど激しい紛争は、彼らの迷いをあっという間に吹き飛ばしてしまった。
同じ民族、さらに同じ宗教による宗派間の争いは過激化しやすい。関係が近いだけに、憎しみも深くなってしまう。現在と映画の世界のベルファストは、絶望と希望が入り混じっている今の世の中を象徴しているような気がした。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。