新撰組が好きに転じたきっかけ
30年ほど前に学習塾の飛び込み営業をしていたころ、担当した地域に壬生があった。京都の四条大宮から西院に至る四条通りの南側の地域。壬生寺の壬生狂言が有名。そして歴史ファンには、幕末に新撰組の壬生屯所があった場所として知られている。
その周辺を数えきれないくらい歩いたけれど、当時のボクは新撰組が嫌いだった。だからあまり関心を持たなかった。でも今なら観光客気分で散策するだろうと思う。
当時に新撰組が嫌いだと感じたのは、幕末の物語として坂本龍馬系に出会ったからだろう。そうなると新撰組は敵方となってしまうので、つい薩長の味方をしてしまう。でも幕末関連の小説や歴史書を読むうち、少しずつその見解が変わってきた。
人間が見せる悲哀という意味では、新撰組や幕府方として薩長に敗れた人たちに心惹かれるようになった。その転機となった映画がある。何度も観ている作品だけれど、久しぶりにじっくり鑑賞した。
2022年 映画#203
『壬生義士伝』という2003年の日本映画。幕末の新撰組に所属していた吉村貫一郎という実在の人物を描いた作品。といっても映画の内容は実話ではなく、作家の浅田次郎さんがフィクションとして創作したもの。だから実際の吉村の人生とは少しちがう。
でもフィクションだとはいえ、この人物がとにかくカッコいい。無骨な田舎者なのに、剣を手にすると恐ろしいほどの技を見せる。盛岡藩を脱藩してまで家族の生活を守ろうとしていた。それゆえ金銭に執着していて、金のためなら汚れ仕事も請け負った。
だけどとても心優しい人物で、理不尽な人殺しは絶対にしない。家族を守るためには死ねない。だから全力で戦うという男だった。そしてタイトルで象徴されているように義に厚い人物でもある。だから最後はその義を守り通すために命を落としてしまう。
そんな魅力的な人物を中井貴一さんが見事に演じている。佐藤浩一さん演じる斎藤一との不可思議な関わりによって、より深い感動が呼び起こされる。明治になっても生きていた斎藤一が、映画の冒頭で吉村の家族が手にしている写真を見てつぶやく。
「忘れるわけがない。俺がもっとも憎んでいた男だ」と。だけどそれが本意でないことは、映画を最後まで観ればわかる。本当は「もっとも愛した男だ」と言いたかったはず。そんな複雑な友情がこの映画の最大の見どころ。とにかく二人とも最高にカッコいい。
ボクはこの映画を観てから、新撰組に対する感じ方が変わった、さらに他の文献や小説と出会うことで、新撰組が好きになった。時代から消えようとしている武士。だけど彼らは必死になってその世界にしがみつき、自分たちの道を貫こうとする。だけど時代は彼らの想いを無惨にも吹き飛ばしてしまう。
鳥羽・伏見の戦いで刀を手にした彼らが銃で殺されていくシーンは切ない。そんな武士の矜持は、不思議なことに彼らを追い詰めた西郷隆盛が引き継いでいる。明治の西南戦争は、時代から消えようとする武士たちの最後の抵抗だったから。久しぶりにこの作品を観て、幕末の激動を実感できた。
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