『根拠がない不安』の処方箋
昨日のスーパーの様子を見ていると、一時期のパニックのようなものは収まりつつある気がした。ティッシュペーパーなんかも大量に置かれていたし、一部の商品は欠品していたけれど、全体としては正常モードだった。
だけどこの時期になっても、両手でトイレットペーパーとティッシュペーパーを抱えた若い夫婦を何組か見た。共働きの夫婦なら、日曜日しか動けないのかも。そのうえここ数日で新型コロナウイルスの感染者が兵庫県で増えているから、不安を感じている人は多いと思う。
そんな不安について、とてもわかりやすく書かれた記事を読んだ。
現役の医師が書いた記事。今回のウイルス騒動で、医師になったころの出来事を思い出されたそう。
ある病院で夜間の救急外来を担当しておられたときのこと。事故や急病等で緊急を要する場合はあるけれど、対応したほとんどの患者が自宅で寝ていれば大丈夫な人だった。夜間にわざわざ病院に来るほどではない。
そんなことになるのは、正しい知識がないからだと著者は判断した。それで来院した人に、できるだけ正確な知識を伝えようとしていたらしい。ところが先輩医師から注意を受けた。
昼間に来院する人に比べて、夜間に来院する人には特徴がある。『根拠がない不安』に囚われている人が圧倒的に多いそう。だからどれだけ正確な知識を伝えても、その内容に耳を貸してくれない。それほど『根拠がない不安』はやっかいらしい。
ではどうすればいいのか、その先輩に尋ねた。その答えが、かなり興味深い。
『根拠がない不安』を持っている人には、『根拠がない安心』を与えてあげるのがベスト。理詰めで説明するよりも、「絶対に大丈夫ですからね」と自信を持って声をかけてあげるだけでほぼ治療は終了する、と先輩医師が言ったそう。
ボクはこの記事を読んで、なるほどなぁ、と得心した。『根拠がない不安』を抱えている人は、『根拠がない安心』を切実に求めている。だから理屈では分かっていても、トイレットペーパーを買い占めてしまう。それは『根拠がない安心』を得たいから。
マスク不足がいい例だと思う。新型コロナウイルスはかなり小さいものなので、マスクでは絶対に防げない。ライブハウスのような閉ざされた空間にいたら、マスクをしていてもほぼ同じだと考えたほうがいい。
マスクの最大の利点は、症状のある人が咳やくしゃみで飛沫を撒き散らさないこと。鼻水等の飛沫はマスクで防げるので、症状のある人は絶対にマスクが必要。だけど症状の出ていない人はマスクに過剰な意識を向けるよりも、しっかりと手洗いをするほうが予防になる。
人混みを避けて、手洗いを励行するならば、マスクがなくても感染のリスクはさほど変わらない。だけど『根拠がない不安』に囚われている人には、こんな理屈は通用しない。反論する記事を見つけ出して、必死になってマスクを手にれようとする。その結果、本当にマスクが必要な人に届かないことになってしまう。
政府の対応に対して、野党はやたらエビデンスを求める。学校を休校させた科学的根拠を示せと迫る。もちろん正確な知識は必要だろう。だけど国民がパニックになっているときには、まちがいなく『根拠がない不安』が蔓延している。
そんなときにこそ、科学的なエビデンスがなくても、まずは『根拠がない安心』を提供するべきなんだと思う。もっとも恐ろしいのはウイルスよりも、パニックになった人間だからね。
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