植えつけられた記憶
一日中どんよりした天気の神戸です。最大級の寒波が近づいているそうですが、風は穏やかで季節風が暴れ出す雰囲気は今のところありません。でもかなり気温が低い。明日になれば風が勢いを増してくるでしょうから、このままだと相当冷えそうです。
アメリカの東海岸は異常寒波に襲われていて、9つの州で非常事態宣言が出ています。交通網がズタズタになっていて、死者も出ているようです。日本でも、もしかしたら沖縄で雪が降るかもしれないほどの寒波が近づいています。明日の外出がちょっぴり心配です。
京都から神戸に越してきて、最も驚いたのが風の強さです。一年を通して、本当によく風が吹きます。京都でも比叡おろしや、愛宕おろしという名で季節風が呼ばれています。でも神戸の六甲おろしに比べたら、その風の勢いは可愛いものです。
もちろん寒さそのものは、神戸に比べて京都の方が厳しいように思います。盆地特有の底冷えは、体の芯から冷えてくる強烈な寒さです。でもその盆地ゆえ、神戸ほど強烈な風は吹きません。風は体感気温を下げますから、今となってはどちらが寒いのか判定できません。記憶というのは曖昧なものですからね。
人生を生きていくうえでの尺度として、記憶は利用されます。子供の頃に京都の寒さを経験しているから、現在の神戸と比較できるわけです。でもその記憶は絶対的なものではありません。記憶は年月を経ることで変質しますし、時には捏造されます。記憶として貯蔵している体験が、実際の現実と異なることは多々あるように感じます。
結局は自分の信じていることを、正しい記憶だとして思い込んでいるだけなのかもしれません。そんなことを考えさせられる小説を読みました。
『オキーフの恋人 オズワルドの追憶』辻仁成 著という本です。
先日このブログで紹介した小説の下巻です。元々は一つの小説として書かれていた作品に、新しい物語を絡ませることで融合させた物語です。上巻についてのブログで説明したように、劇中劇のように二つの物語が交錯します。
ところが下巻を読んでさらにびっくり!
そのなかには、もう一つの物語が隠されていました。『オズワルドの追憶』は、この物語で失踪した作家が連載している小説として登場します。その小説は女子高生連続殺人事件を解き明かすミステリーです。そしてその犯人が明らかになる過程で、実はその物語が実際の現実と、植えつけられた記憶が入り混じったものだと明らかにされます。
そこでこの小説全体のテーマが明らかになります。それが『洗脳』です。
オズワルドというのは、ケネディ大統領暗殺の実行犯だとして逮捕された人物です。しかしオズワルド自身はマインドコントロールされていて、誰かに操られていたという説があります。それと同じように、真犯人に記憶を捏造されて洗脳されていた人物が、実際の記憶と、植えつけらえた記憶との間で葛藤する物語でした。
その『オズワルドの追憶』が、現実世界である『オキーフの恋人」とリンクしていきます。ですから小説のなかで、3つの現実が同時進行しているのです。とにかく読んでいて、何が現実なのかわからなくなってきます。何を信じていいいのか混乱します。そして気がつけば、読んでいる私自身の記憶というものに対して、疑惑を抱くような感覚を呼び起こします。
私が現実だとして記憶していることは、事実なのだろうか?
そう問いかけたくなります。この小説は本当に素晴らしい。辻さんの作品数は多くて全てを読破するにはかなりの時間を要しますが、今のところベスト1に挙げたくなる作品です。
『オズワルドの追憶』での真犯人は私が思っていた人物でした。でも犯人はその人しかいない、という状況から感じただけです。犯行に至る動機や背景については、全く予想と違う展開になっていきました。大作なので読むのに時間はかかりますが、それだけの価値がある素晴らしい小説です。
『夢で会える 体外離脱入門』は在庫僅少ですので、お求めの方はハート出版さんや書店に問い合わせてください。Amazonでの注文はこちらです。
『ゼロの物語』3部作は電子書籍のみの販売となりますので、こちらのホームページから販売サイトに行ってくださいね。
『STORY OF ZERO BOOK Ⅰ 〜ENCOUNTER〜』は全世界のAmazonで配信中です。日本のAmazonはこちらです。