平凡な今日が、未来を変える種かも
昨日、来月に発表される芥川賞と直木賞の候補作が発表された。どちらかといえば純文学に近い芥川賞より、ボクは直木賞作品のほうが好き。
だから今回の候補作を、さっそく読んでみるつもり。図書館を利用するので、ちょっと時間がかかるだろうけれど。
そんな直木賞作家に、佐藤正午さんという人がいる。昨年に『月の満ち欠け』という作品で直木賞を受賞されている。輪廻転生を扱った作品で、あまりの面白さにぶったまげた記憶がある。
それ以来すっかり佐藤さんのファンになってしまい、少しずつ著作を読んでいる。そしてまたまた、とてつもないすごい作品に出会ってしまった。
『鳩の撃退法』下巻 佐藤正午 著という小説。ようやく下巻を読了することができた。上巻の感想については、以前に書いた『魅力は、謎の多さに比例する』という記事を読んでいただけら、この小説の雰囲気をわかってもらえると思う。
津田という直木賞作家だった男が、落ちぶれてデリヘルのドライバーをしている。ところが次々にやっかいなことに巻き込まれ、にっちもさっちもいかなくなる。そして前回のブログに書いたように、多くの謎が投げかけられている。
その謎として、失踪した親子3人の理由と行方、津田の友人が残した3000万円を超える現金、そしてその現金に含まれていたニセ札。
一気に大金持ちになったと思った津田は、たった1枚の紙幣を使ったことでニセ札だとわかり、警察と暴力団に狙われることになる。下巻では上巻の舞台となっていた街を離れ、上京してバーテンダーとなるところからスタートする。
結論からいえば、すべての謎がすっきりと解決する。それも巧妙に伏線が張られていて、その構成のうまさに感嘆するしかなかった。特に最高だったのは、2月28日というたった1日に、この小説の事件に関するすべての『種』がまかれていたということ。
大雪が降った普通(小説では普通じゃないけれど)の1日が、登場人物たちの未来を大きく変えてしまった。その仕掛けが最高にいい。
上巻では3000万円の現金が、すべてニセ札のように読者は思わせられている。ところがそのうちニセ札は、たった3枚しかなかった。
ある暴力団の幹部が、友人のバーのマスターに3万円のニセ札を預ける。一時的に保管して欲しいということ。ところがバーの従業員が、3万円でいいので給料の前借りをしたいと申し出た。バーのマスターはそれを認める。
ところがそのマスターは、妻の不倫問題で自宅を出ることができなかった。そこで行き違いが起きる。金庫に残されていた3万円のニセ札を、店員は自分の前借りだと誤解して持ち出す。
その店員は借金をしていた大学生に3万円を返す。大学生はデリヘルを呼んで3万円を払って遊ぶ。デリヘル嬢は主人公の津田に借金をしていて、その3万円で返済する。というようなルートで、津田にニセ札が流れてきた。
そこからまたややこしいことに、ある女性を介して津田の友人にその3万円が渡ってしまう。そして結果的に遺産の3000万円のなかにそのニセ札が紛れ込む。そのおかげで、津田は暴力団と警察から逃げることになる。
わかりにくいだろうけれど、要するに1日の何気げない出来事が、ボタンをかけ違えたまま進行していく。そしてそれがとんでもない方向に進んでいくという物語だった。そのニセ札は暴力団の隠語で『鳩』と呼ばれている。だからタイトルが『鳩の撃退法』になる。
とにかくめちゃめちゃ面白い小説なので、お正月に時間がある人は読むといいよ。作家がどうして小説を作っていくのか、津田の行動を通して知ることができる。例えばナンパした女性の名前を、犯罪者に使うとかね。いろんな意味で楽しめる小説だった。
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